"赤ワインの余興" 第8話
暴かれた素性と跪く名医
達也は顔面を蒼に染め、壇へ駆けがろうとした。親族席からはも着物の裾を乱して追いかけてくる。
「総、妹はしばかりお酒の席でが滑っただけなんです! 披宴を盛りげようとした余興の冗談に過ぎません!」
達也は揉みを繰り返しながら必に弁した。もハンカチを振り乱しながら叫びてる。
「そうですわ、真由美は根の優しい娘で、悪などございません! どうかお慈を……!」
赤松総の双眸から、容赦のないりの炎が吹きがった。
「の命を奪う企みを冗談と言い放ち、まだ言い逃れをする気か! 恥をれ、のを持たぬ浅ましい豚どもが!」
達也がを伸ばした瞬、背から屈なホテルの警備員たちが駆け寄ってきた。
警備員たちが達也との両腕を、背から力任せに締めげる。
「せ! 俺を郷田物産の専務とっての狼藉か!」
達也は無様に暴れたが、警備員の拘束は微だにしなかった。赤松総は駆けつけたホテルの副支配に向かって、徹に言い渡した。
「この者たちを直ちに会のへ排除しろ。そして、式典の止に伴う全損害と会使用料の全額を、郷田へ括で請求する。数千万円に及ぶ損害賠償請求の訴状は、曜の朝番で赤松会の顧問弁護士から送達させる!」
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資産を奪うどころか、瞬にして巨額の負債を背負わされたのだ。
その混乱の極みに達した会ので、私は静かに席からちがった。
赤ワインで赤黒く染まった藤の訪問着の裾を優雅に払い落とす。子を引く音すらてず、私は親族席の末席をれた。
背筋をまっすぐに伸ばし、ゆっくりと央通へとを踏みす。
歩、また歩と絨毯を踏みしめる私の音だけが、静まり返る会に凛と響いた。
「おい、美桜……! 何をしにてきたんだ!」
警備員に押さえつけられた達也が、顔を真っ赤にして鳴り散らした。
「そんなみっともない格好でにてくるんじゃない! 郷田の恥をこれ以さらす気か! く席へ戻って隠れていろ!」
も切り声を張りげた。
「そうよ! この役たずの貧乏嫁が! 赤松のおりをこれ以買ったらどうするの! さっさと引っ込みなさい!」
私は夫と義母の言葉に線すら向けず、静かに歩みをめた。
壇の正面、赤松総の目ので、私は静かにを止めた。
「赤松総閣の祝宴を汚しましたこと、くお詫び申しげます」
乱れのない完璧な所作で、々と礼を捧げた。
「い、いいえ、をおげください!」
赤松総は慌てて首を振り、私の顔を凝した。
「あなた様のおかげで、がは破滅の淵から救われました。
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あの謀略を暴いてくださらなければ、赤松は毒にかかるところでした。……しかし、なぜあなた様が、あのような決定な証拠をお持ちだったのですか?」
「達也さんたちは、私を持参のない貧乏な嫁だと信じ込んでいました」
私の澄んだ声が、会の隅々まで響き渡った。
「柄も財産もなく、何を言われても耐えるだけの無力なだと」
「当たりだろう!」背で達也が吠えた。「おはただの専業主婦だ! 俺の稼ぎでわせてもらっているだけの寄虫だろうが! で偉そうにを利くんじゃない!」
私は達也を振り返ることなく、訪問着の帯のへとを滑り込ませた。
帯の奥くに忍ばせていた、みのあるの縮緬の袋を取りす。の紐を解き、からな物体を取りした。
純で鋳造された、のひらに収まるほどの方体の印章。
シャンデリアの眩いを受け、黄の属が神々しい輝きを放った。
卓のいテーブルクロスのへ、その印章を静かに置く。
カツン、と澄み切った質な音が響いた。
印章の正面には、寸分の狂いもない格式い文字が刻まれていた。
『藤グループ最総帥之印』
その文字が、赤松総の界にび込んだ。
総の顔から、すべての表が剥ぎ取られた。目を見き、テーブルのの黄を凝している。
本経済を根底から支える巨複企業・藤グループ。その頂点に君臨する絶対創業者族の最総帥。
赤松会が展する総病院の最医療器も、先端研究の資も、そのすべては藤グループの包括な資本支援によって支えられていた。
そして、目のにつ赤ワインで汚された女性こそが、その絶対者本だったのだ。
次の瞬だった。
ドサッ……!
会全体を揺るがすようない音が響いた。
赤松総が、絨毯の汚れも構わず、両膝をに叩きつけたのだ。老総は額をに擦り付け、全を震わせて平伏した。
「し、藤総帥……ッ!」
赤松総の喉から、張り裂けんばかりの叫びがこだました。
「が赤松会が仰ぎ見る至の主君、藤グループ最総帥様……! なんという、万に値する無礼をお見せしてしまったのか……!」
老総の目から、激しい悔の涙がこぼれ落ちた。続いて奥様も膝をつき、留袖の裾をに伏せてを垂れた。郎の修平さんも、事態のきさに戦慄して平伏した。
赤松の族全員が、私の元に向かって額をつけていた。