"赤ワインの余興" 第2話
柱のの末席にて
披宴会には、華やかな弦楽奏の調べが絶えなく流れていた。
しかし、私の座る円卓の周囲だけは、どこか異様な気に包まれていた。席次表をくまでもなく、私の居所は最初から悪を持って決められていた。
郎婦が座る砂席から最もくれた、配膳用のい扉にい末席の端。巨な理の柱のに隠れ、会全体の様子を見通すことすらできない角だった。
卓のさな席札には、私の本名ではなく『郷田達也様 御連れい様』とだけ印刷されていた。のとしてではなく、に付属する具のような扱いだった。
「美桜さん、そんな端っこでじっとしていられて、本当に気楽でいいわね」
義母のがの扇子をパチリと閉じ、侮蔑に満ちた線を投げてきた。その首元には、私が夫を通じて以贈ったはずの、最級の真珠のネックレスがっている。
「名の赤松の親族として、にせるようななりでもないしね。しは自分のを自覚しなさい」
「お母様、着物が汚れておりますので、し化粧で拭き取りたいのですが」
「あら、席をって会をうろつくつもりかしら?」
はわざとらしく眉を吊りげて笑った。
「招待客の皆様がご歓談されているのに、赤黒い染みをつけた女が歩き回ったら目障りよ。
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郷田の恥をこれ以さらすような真似は、絶対に許しませんからね」
親族たちも私を気遣うどころか、の言葉に調子をわせて卑しい笑いを漏らしている。
「達也の嫁は昔から気が利かないからな」「真由美ちゃんが玉の輿に乗ったっていうのに、を添えるどころかを差すなんて、本当に貧乏育ちは困るよ」
この、彼らは私を「寄りのない貧乏な嫁」と見し、親族の雑用を押し付け続けてきた。
しかし、彼らが誇らしげにく親族会の費用や、盆暮れの級な付け届けの所を、彼らはる由もなかった。倒産寸だった夫の会社・郷田物産を救うため、私が裏で面した資だったのだ。彼らは私の沈黙をいいことに、自分たちの実力で会社をて直したのだと信じ込み、傲さを募らせていった。
隣に座る達也は、嫌で級シャンパンのグラスを傾けていた。その頬は酒で赤く染まり、焦点の定まらない濁った瞳で私を見ろしている。
私が膝ののナプキンを静かにえていると、達也が乱暴に私の首を掴んだ。
「おい、どこへく気だ?」
骨にい込むようない力だった。
「化粧へき、最限のなりをえてまいります」
「絶対にこの席から歩もくな」
達也は私の元へ顔を寄せ、酒臭い息を吹きかけながらく吐き捨てた。
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「汚れた着物のまま、そこでさくなって座っていろ。引きて役として惨めな姿をさらしておくのが、おの役目だ」
「引きて役……ですか?」
「そうだ。見すぼらしいおが隣にいるからこそ、真由美の美しさと気品が際つんだよ。いいか、披宴が終わるまで、杯すら席をって取りにくな。もし勝にいて会の空気を壊したら、ただじゃ置かないからな」
夫の胸にあるのは、妹の結婚を利用してに入れたい虚栄と、私を見す歪んだ優越だけだった。郷田物産の専務という肩きに酔い、自らの力で成功したと信じ切っているのだ。
私は乱れた袖を音もなく直し、夫の顔をまっすぐに見つめ返した。
「わかりました。ここに座っております」
「ふん。最初からそうやってしく従っていればいいんだ」
達也は吐き捨てるように言うと、再び親族たちと品な乾杯を交わし始めた。
夫のこの愚かな選択が、自らの退を完全に塞ぐことになるともらずに。
私は卓の端に置かれていた、ホテル備え付けのさな便箋に目を落とした。ハンドバッグの内側から細の万を静かに取りす。
膝ので、誰の目にも触れぬよう素く文字をらせた。
『音響の界線、並びに特捜部突入班への最終図』
き終えた片を指先でさく折りたたみ、のひらの内側にそっと収めた。
背から、料理を運ぶ仕の静かな靴音がづいてくる。私の席の斜めろへ、黒い燕尾をまとった若い男性スタッフが歩み寄ってきた。
彼はしいの器を置く自然な作の途で、わずかに線を私へと落とした。
私はワイングラスの脚を直す仕の隙に、その片を彼のトレイの縁へ滑り込ませた。
仕の青は表を切変えず、いリネンの布巾で隠すようにしてを回収した。そして、周囲の親族に決して悟られない極めてさな声で、私だけに囁いた。
「かしこまりました。総支配にお届けいたします」
青は完璧な角度でをげ、音もなく配膳のい扉の向こうへと消えていった。
このツホテルの総支配は、かつて私のき父の代から藤グループに仕えてきた腹だった。私が本、素性を完全に伏せてこの席に座っていることも、彼だけは事に承していたのだ。