みかん小説
本棚

"年収三千万円の嘘" 第12話

健太の試

美からの最の話を境に、あのからの接触は完全に途絶えた。

代理弁護士を通じて毎、定められた慰謝料が械に私の指定座へ振り込まれている。その額を見るたび、私は引き落とされた全額をそのまま、健太の将来のための信託座へと移し替えていた。あの男たちの汚れた見栄の残骸を、々の活費として使う気にはどうしてもなれなかったからだ。

迎えたのの曜。

健太が所属するジュニアサッカークラブの、会の決勝戦がわれていた。

グラウンドの周囲にはとりどりのチームフラッグがはためき、保護者たちの気のこもった声援が空に吸い込まれていく。

私は朝くから起きて作ったきな箱の弁当を抱え、最列のベンチに腰をろしていた。

「お母さん、筒のお茶、満タンにしてくれた?」

試のウォーミングアップを終えた健太が、額に汗をらせながら駆け寄ってきた。

「もちろんよ。スポーツドリンクもたいのを予備で入れてあるわ」

「あとさ……今、最まで絶対に見ててよね。途で病院から呼びしがあっても、かないでよ?」

健太がしだけ眉をげ、すがるような瞳で私を見げてきた。

かつて、急患の呼びしベルが鳴るたび、息子の試の途でグラウンドをびしていた過の記憶が、いまだにこの子のさなにを落としているのだ。

広告

私は息子ので汚れた膝にそっとを置き、その真っ直ぐな瞳を覗き込んだ。

「丈夫よ、健太。今の当番の先にはしっかり引き継ぎをしてあるし、緊急の連絡が入らない限り、お母さんは歩もここをかないわ。あなたの勇姿を、最初から最までこの目に焼き付けるって約束する」

健太の顔に、パッと満のが咲いたような笑顔が広がった。

「うん! 絶対ゴール決めるから、見ててね!」

主審の笛が鳴り響き、決勝戦のキックオフの蓋が切られた。

コートを縦横無尽に駆け抜ける健太の背番号「10」。

相の屈なディフェンダーに体を当てられて転倒しても、すぐに歯をいしばってちがり、だらけのでボールを奪い返す。

かつてリビングの片隅で、めたカップ麺をで啜っていたあの頼りなかった息子は、いつのにか、自らので力くを踏みしめてる、の派なサッカーに成していた。

試終際、スコアは対の同点。

方からの絶妙なスルーパスに反応した健太が、ペナルティエリアへと猛然と切り込んだ。

キーパーがびしてくる。

「健太、打てーーっ!!」

気がつけば、私は周囲の保護者たちと緒にちがり、喉が張り裂けんばかりの声で叫んでいた。

ドパァン、と乾いたインパクト音が響いた。

広告

健太のから放たれた弾丸のようなシュートが、ゴールネットの隅を激しく揺らした。

決勝点――!

会が割れんばかりの歓声と拍に包まれた。

健太はベンチに向かって駆けし、両を々と突きげながら、群衆のから私の姿を見つけし、満面の笑みできくを振った。

その瞬、私の目からい涙がとめどなく溢れた。

医師として患者の図モニターが正常に戻ったとも、難しい術をやり遂げたとも違う。

母親として、命をかけて守り育ててきたが子の魂が、歓に震えているその瞬を共できたことの尊さ。

これまでの激務の々で私が失いかけていた「本当のの応え」が、確かにそこにあった。

表彰式を終え、首にのメダルをげた健太が、だらけの顔をくしゃくしゃにして抱きついてきた。

「お母さん! 見てくれた!? 俺のゴール、すごかった!?」

「ええ、世界かっこよかったわよ、健太!」

私は息子のを力いっぱい抱きしめた。

帰り、夕暮れに染まるをで並んで歩きながら、健太がふと私の顔を見げた。

「お母さん、今のお昼のお弁当、すっごく美しかった」

「本当? 起きして唐揚げ揚げた甲斐があったわ」

「うん。……ねえ、お母さん。俺ね、お父さんがいなくなって、最初はちょっと寂しかったけど……今の方がずっと好きだよ」

ち止まった私の首を、健太のさながぎゅっと握り返してきた。

「お母さんが笑ってるが増えたから。俺、今すっごく幸せだよ」

その言葉を聞いた瞬、私の胸のに燻っていた「婚によって息子を傷つけてしまったのではないか」という罪悪の澱が、完全に消えっていった。

失ったものはきかった。

裏切りの傷はかった。

けれど、その痛みを乗り越えた先に、私と健太は、誰にも脅かされることのない「本物の親子の絆」をに入れたのだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: