"年収三千万円の嘘" 第9話
収千万の医者
静まり返った宴会に、グラスとカトラリーが触れう微かな属音だけが響いた。
親族席から「え……?」「妻……?」という揺のささやきが波紋のように広がり、美の友席のざわめきが気にきくなる。
砂の康太がガタッと音をてて子を引き、顔面を真っ青にしてちがろうとした。
「ま、まりな! お、何言って……!」
「康太さん、座っていらして。婦から『温まるお祝いのスピーチ』をご指名いただいたのですから、最までお話しさせてくださいね」
私は微笑みさえ浮かべ、マイクの角度を微調した。
「本のご列席の皆様のには、おの馴れ初めについて々事実と異なる説を受けていらっしゃる方がいようにお見受けいたしましたので、このをお借りして、医療従事者として正確な事実関係を共させていただきたくじます」
美がドレスの裾を乱暴に踏みつけながら、甲い声を張りげた。
「司会者、止めて! その女をつまみしてよ!」
だが、司会者もホテルスタッフも、異様な緊張に圧されて誰もけない。
「まず第に。郎の康太さんは、医師ではございません」
私の瞭な声が、再びマイクを通して会を切り裂いた。
美の両親が弾かれたようにちがり、目を血らせて砂の康太を凝した。
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美の友席からは「嘘でしょ……!?」「ドクターだって言ってたじゃん!」と鳴のような声ががる。
「康太さんは結婚以来の、定職には就かず、私の収入に依する形で庭に入っていただいておりました。そして、美さんが周囲にご自されていたという『収千万円』という数字。――それはでもない、勤務医である私個の昨度の源泉徴収票に記載されていた収額面でございます」
「おい! やめろ! やめてくれまりな!」
康太が取り乱して雛壇から駆けりようとしたが、をもつれさせてテーブルクロスを掴み、シャンパングラスを派にへ叩き落とした。ガシャンという破壊音が静寂を砕する。
「やめる理由がどこにありましょうか」
私は歩も引かず、徹な医師の差しでを射抜いた。
「美さん、あなた私に話でおっしゃいましたね。『収千万のエリート医師の夫を奪ってやった、惨めな活に転落した元妻を結婚式で見してやる』と。――そのの通話音声データ、いまこので、ホテルの音響設備を使って皆様にお聞かせいたしましょうか?」
美の顔から、完全に血の気が引いた。唇をワナワナと震わせ、喉からヒュウヒュウと空気の漏れるような音が鳴る。
私がポケットからスマートフォンを取りし、画面を掲げると、美は崩れ落ちるように砂の子へへたり込んだ。
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「そして、最にもう点だけ」
私は親族席で呆然とち尽くす、双方の両親へと線を向けた。
「美さんは現、妊娠ヶでいらっしゃいますね。お腹のしい命の宿った受胎期を医学に逆算いたしますと、らかに私と康太さんの法な婚姻関係が継続していた期と完全に致いたします」
会の誰もが息を呑んだ。
もはや、言い逃れの余などミリも残されていなかった。
「康太! 貴様、なんということを……!」
親族席から、康太の父親の号が轟いた。
老いた父親は拳を握りしめ、震えるで砂へと詰め寄った。
「おは『まりなさんに浮気されて捨てられた』と俺たちに嘘をつき、老の蓄えまで騙し取ったのか! 自分の貞のツケを、親の退職で払わせたというのか!!」
美の母親もまた、泣き叫びながら娘のへと駆け寄った。
「美! あなた、私たちに何て言ったの!? 相は派なお医者様で、妻の嫌がらせに苦しんでいるから助けてあげてほしいって……親戚にをげてかき集めたあのお、全部あなたの見栄と嘘のためだったの!?」
阿叫喚の罵声と泣き叫ぶ声がび交い、百を超える参列者たちは顔を見わせ、蜘蛛の子を散らすようにへと急ぎ始めた。
純のウェディングケーキは誰もをつけぬまま放置され、特注のクリスタル装飾は虚しく照を反射している。
私はマイクを両で丁寧に演台へと戻し、々と礼した。
「おがこれからどのような茨のを歩まれるのか、私にはる由もございません。ただ、を貶め、の尊厳を踏みにじることでしか保てない虚栄は、必ず自らを焼き尽くす刃となることだけは申し添えておきます。――本は、本当にお招きいただきありがとうございました」
背筋をピンと伸ばし、私は度も振り返ることなく、修羅と化した宴会をにした。