"年収三千万円の嘘" 第8話
かの結婚式
の清々しい週末、ホテルの最階にある宴会は、華やかな装飾と百を超える参列者たちの気に包まれていた。
受付には、美の向で特注されたという巨なクリスタルのウェルカムボードが輝き、会内には甘ったるい百ののりが充満している。
私が受付に姿を現した瞬、受付を担当していた康太の従兄弟たちが、凍りついたようにきを止めた。
「あ、あの……相沢、まりな様……ですか?」
「ええ、婦からご指名いただき、友代表として席いたしました」
ご祝儀袋を差しすと、受付の親族は居悪そうに線を泳がせながら、私を席へと案内した。
美は親族に対して、私のことを「元妻だが、今は円満な友関係を築いている理解ある物」と説していたらしい。その凌ぎの嘘をねすぎて、自分自で張り巡らせた蜘蛛の巣に絡め取られていることに、彼女はまだ気づいていなかった。
郎婦の入を告げるファンファーレが鳴り響いた。
扉がき、純のフリルを幾にもあしらった豪華なウェディングドレスにを包んだ美が、康太の腕に抱きつくようにして入してきた。妊娠ヶを過ぎ、わずかにふくよかになった腹部をあえて調するかのようなエンパイアドレス。その顔には、「略奪に成功し、エリート医師の妻の座を射止めた勝者」
広告
としての傲な笑みが張り付いていた。
隣を歩く康太は、特注のいタキシードを着ていたが、その表はどこか張り、線は終始落ち着きなく宙を彷徨っていた。
砂の雛壇に登る際、康太の線が瞬だけ、最列の招待席に座る私を捉えた。
男の顔が、恐怖で引きつった。
(余計なことを言うなよ……頼むから黙っていろ……)
無言の懇願が、その怯えた瞳から痛いほど伝わってきた。
披宴は、美の目論見通り、豪華絢爛にんでいった。
流シェフによるフランベの演、巨な段ねのウェディングケーキ、プロの聖隊による祝福の唱。美の友席からは「美、玉の輿おめでとう!」「さすがドクター夫、格が違うね!」という無責任な歓声がび交い、美はそのたびに満げにシャンパングラスを掲げてみせた。
だが、親族席の空気はらかに異様だった。
康太の両親は、背筋をさく丸め、周囲の豪華すぎる演に居悪そうにを縮めていた。特に康太の父親は、会の隅に座る私の姿を何度も気に病むように見つめ、目がうたびに申し訳なさそうにくをげてきた。
やがて、会の照がわずかに落とされ、司会者の落ち着いたアナウンスが響き渡った。
「皆様、変らくお待たせいたしました。ここで、婦・美様よりたっての烈なご希望により、婦のご友でいらっしゃいます、相沢まりな様より、温まるお祝いのお言葉を頂戴したいとじます。
広告
相沢様、どうぞ方のマイクへおみください」
会から形式な拍が沸き起こった。
砂の美は、扇子で元を隠しながら、私に向けて勝ち誇ったような笑を投げかけていた。
(さあ、ひれ伏しなさい。惨めな負け犬として、私たちの幸せを涙ながらに称えなさい)
その浅ましい内が、透けて見えるようだった。
私はナプキンを静かにテーブルに置き、背筋を凛と伸ばしてちがった。
仕ての良い濃紺のパンツスーツの襟を正し、迷いのない取りで、スポットライトが照らすメインステージのマイクへとみた。
マイクを両で受け止め、会を見渡す。
百数の参列者の線が、斉に私へと注がれた。
「ただいま過分なるご紹介を預かりました、相沢まりなと申します」
透き通るような私の第声が、性能のスピーカーを通じて、宴会の隅々にまでクリアに響き渡った。
「婦の美さんとは、私の息子が所属しておりますジュニアサッカークラブの保護者仲として、親しくお付きいをさせていただいておりました。そして――郎の康太さんとは」
私は言葉を切り、砂の康太の目を真っ直ぐに見据えた。
「わずかヶまで、苦楽を共にしてまいりました、私の夫でございます」
会の空気が、瞬にして凍りついた。