"年収三千万円の嘘" 第4話
あっさり終わった結婚
「婚届」という言葉が現実を帯びた瞬、康太は途端にうろたえ始め、見苦しい打算をにし始めた。
「お、おい、待てよまりな! 健太の気持ちはどうなるんだよ! な頃の男の子から父親を奪うのか? 片親の庭にしてだとわないのかよ!」
「夜にでカップ麺をべさせ、ファミレスに放置するような父親なら、いない方が百倍マシよ。父親としての義務を何つ果たしていないに、親権を主張する資格はないわ」
「おみたいに当直ばかりでにいない女が、で育てられるわけないだろ!」
「病院に相談して、夜当直のバイトはすべて辞退し、常勤の勤務も調してもらうわ。これまでは健太の将来のためにしでも貯えを増やそうと無理をしてきたけれど、もう分な蓄えはあるもの。贅沢をしなければ、定でがっても何自由なく育てげられるわ」
医師として以、収入を維持しながら堅実に資産運用を続けてきた私には、すでに億単位の個資産があった。激務をセーブしたところで、活準が揺らぐことなど微もない。
現実を突きつけられた康太が言葉を失っていると、隣の美が苛たしげに康太の背を突いた。
「もういいじゃない、康太くん! こんな見栄っ張りな女に縋り付かなくても、私と彩とでしい庭を作ればいいでしょ!」
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美の根拠のない気に背を押されたのか、康太はふんぞり返るようにして私を睨みつけた。
「……へっ、悔するなよ! 言っとくけどな、俺が浮気した確固たる証拠なんてないんだから、慰謝料なんて円も払わないからな!」
「ええ、結構よ。あなたからの慰謝料なんて最初から期待していないわ。刻もくこのからあなたの私物を撤して、私の界から消えてくれることが番の慰謝料よ」
そのの私は、本気でそうっていた。
弁護士をててドロ沼の法廷闘争を繰り広げるがあるなら、分でもくこの男との婚姻関係を清算し、健太との穏やかな活を取り戻すことにエネルギーを注ぎたかったのだ。
マンションは私の単独名義であり、共財産と呼べるような蓄えも夫側には皆無だったため、財産分与で揉める素すらなかった。康太は自分のの回りの類と趣のゴルフバッグだけをに詰め込み、捨て台を残して美と共にっていった。
数、役所に提された緑の用によって、の婚姻活は呆気なく終止符を打った。
そのの夜、静まり返ったリビングで、私は向かいって座る健太の目をじっと見つめた。
「健太……お父さんとお母さん、婚したの。健太に寂しいいをさせて、本当にごめんなさい」
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息子のさなを握りしめると、健太はし困ったように眉をげ、私の予よりも遥かにびた声で答えた。
「ううん、いいよ。お母さんが謝ることじゃないよ」
「健太……」
「最のお父さん、にいてもずっとスマホいじってニヤニヤしてたし。サッカーの試も、俺のことなんか全然見てないで、彩ちゃんのお母さんとずっとくっついて喋ってたから……もういいんだ」
子どもの観察を甘く見ていた。が隠し通せているとい込んでいた勝な欺瞞を、な歳の息子は痛いほど正確に見抜いていたのだ。
「これからはね、お母さん夜のお仕事を幅に減らしたから。の試も、絶対に応援にくからね」
「本当!? 病院から呼びされない?」
「ええ、もう緊急の呼びし当番はしてもらったの。ずっと健太のそばにいるわ」
健太の顔に、ここ数ヶ見たこともなかったような眩しい笑顔が戻った。
その屈託のない笑顔を見つめながら、私は自分の胸の奥が張り裂けそうになった。
将来の学費のため、資産のためと理由をつけて、私はこの子の「今」というかけがえのないを犠牲にしていたのだ。父親の裏切りは許しがたいものだったが、庭を顧みなかった私自にもきな反省すべき点があったのだと痛した。
それからの活は、驚くほど穏やかに回り始めた。
定で病院をて、夕方にスーパーで鮮な材を買い、息子の好物のハンバーグやグラタンを作る。夕を囲みながら学の来事を聞き、週末にはグラウンドの最列で息子のゴールに歓声をげる。
収という数字はがったものの、私のはこれまでので最も豊かに満ちりていた。
婚からちょうど週が経過した、ある曜の夜のことだった。
見覚えのない携帯番号から着信が入った。画面をタップしてに当てると、受話器の向こうから、妙に弾んだ甲い声が響いてきた。
『もしもし、まりなさん? お久しぶり〜』
「……美さん? 週に顔をわせたばかりだけど、何の用かしら」
『ふふっ、用件がないと話しちゃいけない? まあいいわ。元奥さんのあなたにだけは、番に嬉しいご報告をしておこうとってね』
背筋にな虫唾がった。
「何の話?」
『私ね、妊娠したの。今産婦科で確定したんだけど、もう妊娠ヶに入ってるんだって』
私のので、カチリと徹な計算の歯が噛みった。
婚成から、まだ週。
そして、妊娠ヶ――。
この女は、自分が今何をっているのか、その法なをこれっぽっちも理解していないのだろうか。