"年収三千万円の嘘" 第1話
夜勤だとっていた妻
「これで本の来カルテは全部終ですね。お疲れ様でした」
護師の声を背で聞きながら、私は子カルテをログアウトした。壁掛け計の針はすでに午を回っている。
私の名は相沢まりな、歳。域の核病院で内科医として勤務している。勤務医の常として当直やオンコールがく、さらに週に何度かは救急指定病院の夜当直のバイトも引き受けていたため、帰宅した頃には学の息子・健太がすでに寝息をてていることも珍しくなかった。
夫の康太とは結婚してになる。
もともと営業職をしていたが、健太がまれたのをに「どちらかが庭をしっかり守ったほうがいい」と言いし、仕事を辞めて専業主夫になった。私の医師としての収だけでも活には分すぎる余裕があったし、何より激務の私の代わりに子どもを誰かが見ていてくれるには代えがたいものがあった。
だから私は夫が主夫になることに反対しなかったし、激務に没できるのは康太のおかげだと謝さえしていた。活費全般の決済用カードとは別に、彼が友付きいや趣に困らないよう、毎分な額の自由になる遣いも渡していた。
その夜は、予定されていた急患の処置が落ち着いたため、珍しく予定よりく病院をることができた。
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「ただいま」
鍵をけて玄関をくぐると、リビングのかりは灯っていた。しかし、ダイニングテーブルに座っていたのは健太ただで、そのさな元にはコンビニのカップ麺が湯気をてていた。
半を回っている。育ち盛りの学の夕がこれひとつきりなのかと、私はさすがに胸の奥がざらついた。
「健太、お父さんは? どうしてこんなにカップ麺なの」
「あ、お母さん、お帰り。お父さんね、『今はサッカーのママ友と事な相談があるから遅くなる』って。蔵庫のおでカップ麺買って先に寝とけって言われた」
「ママ友……?」
健太が所属しているジュニアサッカークラブの保護者付きいだろうか。平の送迎や当番を康太に任していたため、私より夫の方が保護者仲と顔が広いのはっていた。だが、学のが子を夜に放置してまでかける相談事とは体何なのだろう。
台所へを向けると、シンクには朝の皿がそのまま放置され、すら張られていなかった。リビングの隅のソファには、畳まれていない洗濯物がのように積まれている。
最、夜遅くに帰宅するたび、のが微妙に荒れていることが増えていた。激務のとしては「毎完璧に事をこなすのは変だろう」と夫を慮り、休に私が黙って片付けるようにしていたのだが、目のの現実はあまりに度が過ぎていた。
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「健太、こんなのじゃ栄養りないでしょ。何か簡単なもの作るから待ってて」
「ううん、もうお腹いっぱいだから丈夫。それよりお母さん、は休み?」
「ええ、は久しぶりに丸当直も勤もない完全休よ」
「じゃあ、の練習試、見に来てくれる?」
「もちろん。番で応援するわ」
ぱあっと顔を輝かせる健太を見て、私は胃のあたりが痛むような罪悪を覚えた。
息子に自由のない将来を残してやりたい、教育費も環境も最のものをえてやりたいと乱に当直をこなしてきたが、そのせいでこの子の常を置きりにしていたのではないか。
そうい詰めていた、まさにそのだった。
ガタガタと玄関の鍵がき、男の浮かれた声が廊に響いた。
「ほら、入って入って。誰もいないからさ、今夜はゆっくり――」
楽しげな康太の声に続いて、甲い女の笑い声がにび込んできた。
私が怪訝にいながらリビングのドアをけると、玄関で靴を脱ぎかけていた女性と目がった。
相の顔を見た瞬、私は別ので絶句した。
「……美さん?」
息子のサッカークラブで何度か顔をわせたことのある保護者だった。婚して学の女の子を女つで育てていると聞いており、会の差し入れの際に私とも言言、言葉を交わしたことがあった。
私の姿を認めた瞬、康太の顔から文字通り血の気がサーッと引いていった。
「ま、まりな……!? なんでにいるんだよ、今は当直じゃなかったのか!?」
「急患が落ち着いたから代診をてて帰ってきたの。それより康太、どうして美さんがこんなにうちへがろうとしているの」
美は慌てて脱ぎかけたパンプスにを突っ込み直し、髪をかきげながらでまくしたてた。
「ち、違うんですまりなさん! ちょっとクラブの役員のことで康太さんに相談があって……で送ってもらったついでに、資料をお渡ししようとしただけで!」
夜のくに、鍵をけて「誰もいないからゆっくりしていけ」と招き入れる景のどこが「役員の相談」だというのか。見え透いた言い訳に、激しい嫌悪が込みげてきた。
「相談なら、の昼にグラウンドでなさってください。健太も起きています。今すぐお引き取りいただけますか」
私のえ切った声に、美はすがるような目で康太を見た。
康太は「だから何でもないって言ってるだろ!」と虚勢を張ったが、泳ぎまくる線がすべてを物語っていた。