"母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景" 第10話
自分で決める
あの猛暑のから、のが流れた。
共同会社『アグリ』は順調に成を続け、参加する農は件にまで増えていた。敷内にはしく、太陽パネルを備えた代な型集荷が完成し、奈津美がかつて寝泊まりしていた仮設ユニットハウスのあった所は、トラックがひっきりなしにき交う物流の所となっていた。
元夫のは、契約更の報告遅れと仕入れ体制の備を会社から厳しく問われ、課のポストを更迭されたとの噂で聞いた。現は別の部署で、かつての横柄さをすっかり潜め、目たないように働いているという。
そして、元義母の幸恵からは、事件から数ヶに通のが届いていた。
『黒田奈津美様。 あの、救急ので目を覚ました、私は自分が犯した罪のさに震えました。 私は、あなたが田舎で惨めに暮らしている姿を見届けることで、自分の正しさを証したかったのです。農を蔑み、あなたのき方を笑うことでしか、自分を保てない浅ましいでした。 あなたが汗を流して守り育てていたものは、私のくだらない見栄など元にも及ばない、本物の誇りでした。 度とお目にかかることはありませんが、からお詫び申しげます。返信はです』
何度もき直した跡がある、震える文字だった。
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奈津美はそのを静かに読み終えた、引きしの奥へと仕い込んだ。許す気も、昔の関係に戻る気もなかったが、のが自らの愚かさと向きった証として、ただ受け止めた。
そして、緑が眩しいの曜。
共同会社では、域の々や取引先を招いた『の農見学会』が催されていた。
直売所のには朝からい列ができ、みずみずしい採れたてのトマトやハーブを買い求める客で賑わっていた。
「いらっしゃいませ! 本の見学ツアーはからのご案内になります!」
受付で笑顔を振りまくスタッフたちの列のに、見覚えのある柄な女性の姿があった。
仕ての良い紺のワンピースを着て、傘を畳んだそのは、般の客に混じって静かに並び、千円の入料を払っていた。
川幸恵だった。
のような、を品定めするような刺々しい線はどこにもなかった。どこかさく丸くなった背には、相応の静けさが漂っていた。
見学を終え、直売所で箱のトマトを抱えててきた幸恵と、事務からてきた奈津美の線が、ふわりと交わった。
幸恵は瞬だけ驚いたように肩を揺らしたが、すぐに自嘲気に元を綻ばせた。
「……こんにちは」
「こんにちは」奈津美は穏やかに微笑んだ。「今は、見物ですか?」
しだけ悪戯っぽく尋ねると、幸恵は元のトマトの箱を両でそっと抱え直した。
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「いいえ。……買いに来たのよ」
「そうですか。うちのトマト、美しいですか?」
「まだべてないわ」
「じゃあ、どうして買ってくださったんですか?」
幸恵は真っ直ぐに奈津美の目を見つめ、静かに言った。
「べてから、自分で決めようとって」
その言葉を聞いた瞬、奈津美の胸の奥で、何かが静かに溶けていくのをじた。
の評価に縋り、誰かを蔑むことでしか自分の居所を確かめられなかったが、ようやく自らの覚で物事を見つめようとしている。
「ぜひ、やして召しがってください。塩も何もつけなくても、甘いですから」
「ええ……ありがとう」
幸恵は々と礼すると、度も振り返ることなく、初の漏れのを駅へ向かって歩いていった。
その背を見送りながら、奈津美はく息を吸い込んだ。
の匂いと、青々とした野菜の命力が、胸いっぱいに広がる。
自分が取り戻したのは、都会の暮らしでも、元夫を見返すための成功でもなかった。
誰と暮らし、どこで汗を流し、自分のをどう定義するか——そのすべてを、自分ので選び取る自由だったのだ。
「代表! 午の配送分のチェック、お願いします!」
「はい、すぐきます!」
奈津美は作業着の袖をまくりげ、太陽のがり注ぐハウスへと駆けした。
青空のに広がるへのは、どこまでも真っ直ぐに、力く続いていた。