"母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景" 第1話
踏みにじられたの匂い
の湿った気が、窓を閉め切ったマンションのリビングに淀んでいた。
夕の片付けを終えて、たい麦茶をテーブルに置いたその瞬、夫の川がソファのでを組み直しながら、何気ない調子でをいた。
「なあ奈津美、ちょっと相談があるんだけどさ」
「何かしら。仕事の話?」
は堅のチェーン会社で、舗発から仕入れ関連の部署へ異したばかりだった。社内での評価をげたい、く同期のでつ抜けしたいと、毎晩のように世の話ばかりをにしていた期だった。
「いや、うちの会社で舗をどんどん増やす計画がんでいてね。し資と担保の話がてるんだよ。……お義母さんのの部を、うちの会社の担保として使わせてもらえないかなってってさ」
に入ってきた言葉のを理解するのに、数秒かかった。
考が真っになり、指先からすっと体温が引いていくような覚を覚えた。
「……無理よ」
考えるもなく、喉の奥から乾いた声がた。
「おいおい、まだお義母さんに聞いてもいないじゃないか」
「聞かないわ。聞くまでもないことよ。あそこはお母さんが女つで農業を続けて、私の学費をしてくれた切ななのよ。ハウスにを引くも、軽トラが通るあぜも、全部あのが関係してるの。
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の会社の借の担保になんて、絶対に差しせるわけがないでしょう」
はあからさまに嫌な顔になり、舌打ち混じりに息を吐いた。
「の会社って何だよ。俺の仕事のためじゃないか。俺たちの将来のための話だろう? ちょっと名を貸してもらうだけの話なのに、なんでそんなに儀なんだよ」
「私たち夫婦の将来に、お母さんの活の基盤を巻き込むことはできないわ。きっぱり諦めて」
奈津美がい調で突っぱねると、は両を軽くげてみせた。
「分かったよ、分かった。じゃあこの話はなしだ」
あまりにあっさり引きがったため、奈津美はそのはの底から堵していた。夫もし魔が差しただけで、妻の実を尊してくれたのだと信じ切っていたのだ。
だが、その平穏はわずか数週で、無惨に砕け散ることになった。
品流通会社で品質管理の仕事をしていた奈津美は、ある、仕事の打ちわせでの会社の関係者と偶然顔をわせた。ち話の途で、相の営業部が笑顔で言ったのだ。
『ご主、舗のプロジェクトで張り切っておられますね。奥様のご実の広な農をバックアップに使える見込みだと伺いましたよ。いですね』
臓をたい鉄の爪で握りつぶされたような衝撃だった。
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奈津美は貼りついたような笑いでそのをやり過ごし、震えるでをらせて帰宅した。
その夜、着を脱ぎながら帰宅したに、奈津美は玄関先でくたい声をぶつけた。
「あなた、私の母のを使える見込みだって、会社に言ったの?」
は瞬だけ目を泳がせたが、すぐに何わぬ顔でき直った。
「……能性の話をしただけだよ」
「能性なんてないって、あの夜にはっきり断ったはずよ! 本に言の相談もなく、会社に先って話すなんて、体どういうつもりなの!?」
「だからで話しえば何とかなるとったんだよ! 俺だって司にアピールしたかったんだ! じゃあ何か、俺が会社で恥をかけば満なのかよ!」
逆ギレして寝のドアを乱暴に叩きつけた夫の背を見つめながら、奈津美の胸の奥で、何かが音をててえ切っていった。
この男にとって、妻の実も、母がにまみれて守ってきたも、自分の世のための駒に過ぎないのだ。