"認知症の父を選んだ私を捨てた夫、5年後の再会" 第9話
もう度、族になる
「宅配キッチンひまわり」をちげてが過ぎる頃には、配達件数は域の枠を超えて広がりを見せていた。
スタッフをたに雇い入れ、軽の保を台導入した。私は仕込みだけでなく、材の仕入れ交渉や顧客管理、スタッフのシフト調といった経営全般を切り盛りするようになっていた。
商会議所のセミナーに通い、専から帳簿の付け方や労務管理を学んだ。
もちろん、失敗も数え切れないほどあった。
注文を受けすぎて配達が遅れ、お客さんからお叱りを受けたこともある。仕入れの見込みを誤って赤字をしたもあったし、父が急に体調を崩して予定していた商談をすべてキャンセルせざるを得ないもあった。
郎がかつて吐き捨てたように、経営なんて決して簡単なものではなかった。
けれど――「おにできるわけがない」と決めつけられる筋いも、最初からなかったのだ。
会社をきくしていくで、私が何よりもこだわったのは「スタッフが族の事で引け目をじない職づくり」だった。
親の急な通院。子どもの発。介護のがりない。
そうした理由で休むを、絶対に誰も責めない体制を作った。仕事を属化させず、誰かが抜けてもチーム全体でカバーしえる仕組みをえた。
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自分自が「たったで背負い込むことの獄」をっていたからこそ、それだけは絶対に譲れなかった。
そして、相談窓で会った倉田さんとの距も、しずつ、けれど確実に縮まっていった。
彼は、私の父に対してもごく自然体で接してくれた。
父が同じ自話を度繰り返しても、度とも「へえ、そうなんですか!」と初めて聞くように相槌を打つ。父が彼の名を忘れてしまっても、
「また自己紹介できるチャンスが増えたってことですよ」
と朗らかに笑いばしてくれるようなだった。
ある、父がデイサービスにかけているに、私は気になっていたことを尋ねてみた。
「倉田さん……疲れませんか? 父、同じことばかり何度も言っているのに」
倉田さんはコーヒーカップを置き、し考えてから柔らかく首を横に振った。
「同じ話でもね、お義父さんにとっては、今この瞬にいした切な来事かもしれないじゃないですか。それを緒に楽しむのは、僕にとってもいいですよ」
その言葉を聞いたとき、胸の奥にじんわりと温かいものが広がった。
このとなら、完全な私のままでも、もう度「族」になれるかもしれない――そうえた。
再婚へと踏みすまでには、それなりのがかかった。
かつて郎との結婚に失敗した痛烈な記憶が、私から自信を奪っていたからだ。
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「私、父の介護があります」
「っていますよ」
「会社の経営もあるから、世般の奥さんみたいに事を完璧にはこなせません」
私のを遮るように、倉田さんはくすりと笑った。
「世般の奥さんって、誰が決めたんですか? 事はが空いている方がやればいいし、とも忙しいはお弁当でも買えばいい。介護だって、使えるサービスを全部使って、みんなで支えっていけばいいんです。都子さんに何かを背負わせるために、結婚するわけじゃありませんよ」
その言が、私のの最の鍵をけてくれた。
私たちは籍を入れた。
やがて、息子の律がまれた。
父の記憶はさらに曖昧になっていたけれど、律のさな顔を見ると、決まって顔をくしゃくしゃにして笑った。
「都子、このい子は誰の子だ?」
「私と倉田さんの子だよ。名は律。お父さんの初孫」
「そうか……俺に孫ができたのか」
そして分、同じ台を繰り返す。
「都子、この子は誰の子だ?」
「お父さんの孫だよ」
何度答えても、父の顔には毎回、まれたてのようなびが満ち溢れた。
記憶が消えてしまっても、その瞬に湧きがる温かなまでが消えてしまうわけではないのだ。
律がしきくなると、父の作る唐揚げが好物になった。
父の調子が良いを見計らって、で台所につ。
「じいちゃんの唐揚げ、お肉がふわふわで世界美しい!」
さな律がの周りを油でらせて笑うと、父はエプロンの胸元を張った。
「当たりだ。じいちゃんはな、昔ホテルのシェフだったんだぞ」
その景を見つめるが、私のので何よりも尊かった。
「宅配キッチンひまわり」はやがて法化し、私は代表取締役に就任した。
従業員も増え、配送がをり回るようになった。
、を追いされる際に郎が浴びせてきた呪いの言葉を、折いす。
――親の介護なんか始めたら、おのはそこで終わりだ。
違った。
私のは、終わるどころか、あのから本当ので始まったのだ。
もちろん、失ったや流した涙は数え切れない。
けれど、父の介護という現実に直面したからこそ、私は本当にやりたい仕事に会えた。
父を支えようと掻いたからこそ、かけがえのない夫や仲たちと巡り会えた。
父の遺してくれたと志が、ひとつの会社となって、いま域の々を温めている。
そして今。
県内の介護事業者が堂に会する交流会で、自社の配見守りサービスの取り組みを発表してほしいと依頼を受け、私はこのホテルを訪れていた。
まさかそのロビーで、ぶりの元夫が待ち構えていようとは、にもわずに。