"60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求" 第9話
純の総帥印と最の夜
退院夜、曜の午。
に及ぶい入院活の、最の夜が訪れた。
私の荷物は、護師が買ってきてくれた数着のパジャマと洗面用具、そして入院に着ていた毛玉のついたコートだけ。さなボストンバッグつに、すべてが収まっていた。
消灯をに、病の扉が音もなくき、がで入ってきた。
彼の両には、黒漆塗りのな桐箱が恭しく捧げ持たれていた。
カーテンを閉め切ると、はその箱を私のベッドのに置き、静かに蓋をけた。
パッと、病の暗いかりのに、まばゆいばかりの黄のが溢れした。
桐箱のに鎮座していたのは、純で鋳造された、ずっしりとしたみを持つ角印だった。
印面には、古印体でく刻まれた『神堂』の文字。
そして印章の頂部には、を翔ける黄の鳳凰の匠が、超絶技巧の彫によって緻密に刻み込まれている。
【神堂グループ最総帥印】。
総資産数兆円、傘企業数百社を従える、本経済界の頂点につ者だけが所持を許される、絶対権力の象徴である。
「のご陣に備え、本来の総帥のお姿を取り戻していただくため、本部の庫よりお持ちいたしました」
が恭しくをげる。
私はゆっくりとを伸ばし、その純の印章を持ちげた。
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のひらにズシリと伝わってくる、圧倒な量。そして、属特の徹な触。
そのみをじた瞬、私の胸の奥底で、最の何かが完全に反転した。
私はこれまで、この印章が持つ巨すぎる力と孤独から逃れ、ただの女性として、ささやかな温もりを求めてきてきた。
倒産寸だった夫の会社を救うために億円の保証を与えたのも、義母に毎百万円の遣いを渡していたのも、麻布の豪邸を買い与えたのも、すべては「する族」を守るための個な慈だった。
だが、彼らはその莫な恩恵を、自分たちの実力だと傲に錯覚した。
そして、命の危に瀕した私を見捨て、会社のを横領して座で豪遊し、退院する妻を「を運ぶ財布」としか見なさなかった。
(……愚かなたち)
私は純の印章を指先で撫した。
の慈と施しのに胡をかき、その恩の命を蹴にした寄虫たち。
彼らに、この資本主義社会の本当の厳しさと、神堂グループの絶対な掟を、骨の髄まで刻み込んでやらなければならない。
「さん。野美桜という名の、都のいい妻は……この病に置いていきます」
私の唇から漏れたのは、氷のように研ぎ澄まされた、静かな宣告だった。
「の午、麻布のに入るのは、神堂グループ最総帥――神堂美桜です」
「御に」
はく、く敬礼した。
「帝都メガバンクの保証解除予約、京裁の制執部隊、警庁捜査課……すべて、の午、総帥の号令とともに完全に同期いたします」
私は純の印章を、羽織る予定のグレーのトレンチコートの内ポケットへと滑り込ませた。
胸骨の傷痕の真に位置するそのみは、私に度と揺らぐことのない、絶対な力を与えてくれていた。
の午。
彼らはいつものように、私を嘲笑い、罵倒するだろう。
「を持ってこなかったのか」と鳴り散らし、私を蹴にしようとするだろう。
だが、その瞬こそが、彼らの偽りの国が音をてて崩壊する、処刑のファンファーレとなるのだ。
私は静かにベッドに横たわり、決戦の朝が訪れるのを、絶対の静寂ので待ち受けた。