"60日間見舞いゼロの夫、退院した妻に600万円を要求" 第3話
般病棟の孤と無慈な通話
緊急術から週が経過し、命の危を辛うじて脱した私は、集治療から般病棟の部へと移された。
本来であれば、神堂グループが提携する学病院の特別VIPフロアへ転院し、専属の医療チームによる最準のケアを受けることも能だった。しかし、私はそれを頑なに辞退した。
普通の主婦「野美桜」という偽装を解かないまま、彼らが私をどう扱うのか、その底れぬ浅ましさを最までこの目で見届ける必があったからだ。
般病棟に移ると、面会制限は幅に緩された。
同のベッドには、連、族や見い客が温かな笑顔を携えて訪れていた。
カーテンの隙から、隣のベッドの老婦に付き添う息子の声が漏れ聞こえてくる。
「お母さん、リンゴ剥いたよ。無理してべなくていいからね。洗濯物は持って帰るから、しいパジャマは引きしに入れておいたよ」
孫が駆け寄り、ベッドの柵越しにさなを握りしめる。
「おばあちゃん、く元気になってね!」
その眩いばかりの温もりに触れるたび、私の胸には枯れの枯らしが吹き抜けた。
私が入院してからの余り、剛田のは、誰として病院の敷居を跨ごうとはしなかった。
着替えのパジャマも、歯ブラシ本すら届かない。
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私がにつけている無の寝巻きや用品は、憫にった護師が、私の財布から現を預かって病院の売で買い揃えてくれたものだった。
夕暮れ。病の窓のでは、京タワーがたい夕のに朱のを灯し始めていた。
私のベッドサイドのテーブルには、無質なプラスチックの差しと、消音モードのまま放置されたスマートフォンがあるだけだった。
その、沈黙を守っていた端末が、ブブッ、ブブッといバイブレーションを響かせた。
画面に浮かびがったのは、夫である【剛田達也】の文字。
私が倒れてから数、初めての「直接の話着信」だった。
私は痛む胸骨をで押さえ、ゆっくりとを伸ばした。通話ボタンをスワイプし、スピーカーをに当てる。
「……もしもし」
気管挿管の遺症でかすれた、々しい声が漏れた。
『おい! やっとたな! 何回メッセージ送らせれば気が済むんだ、この役たずが!』
挨拶も、体調への気遣いもなかった。
第声から鼓膜を突き破らんばかりに響いてきたのは、激しい苛ちに満ちた声だった。
同の患者に迷惑がかからぬよう、私は慌てて通話音量を最に絞った。
『おい、聞いたぞ。集治療をて般病棟に移ったらしいじゃないか。ピンピンしてきてるんなら、なんで送続きをしねえんだよ!』
「……達也さん。
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私、臓の術をして……まだ起きがるのも……」
『そんな言い訳が通用するか! ベッドのでスマホ弄るくらい、指本でできるだろうが!』
達也は私の言葉を乱暴に遮り、唾をばすような勢いでまくしてた。
『先と今、母さんの座に円も入ってないせいで、母さんが毎狂ったように騒いでるんだぞ! 俺が会社から帰るたびに文句言われて、どれだけストレス溜まってるか分かってんのか!? 今の母さんのクレジットカードの引き落とし、とうとう残で弾かれたんだぞ! 剛田の恥晒しめ!』
「……義母さんのカード代を、なぜ私が……」
『当たりだろ! おが毎百万払う約束で、このに置いてやってるんだろうが! 社の妻としての義務も果たさずに、病院のベッドで優雅に寝っ転がってんじゃねえよ! 今すぐネットバンキングで千百万振り込め! 今にだ、分かったな!』
ツーツーツー……。
方に鳴り散らされた、通話は乱暴に切断された。
病に、再び無質な静寂が戻ってきた。
私はスマートフォンをゆっくりと胸のに置いた。
激痛に耐え、の境をさまよっていた妻に対し、第声が「を振り込め」。
そして、放置した挙句に吐き捨てた言葉が「病院で優雅に寝っ転がっている」。
彼らにとって、私の肉体の苦痛も、失われかけた命も、義母の座での買い物を阻害する「都な障害物」
でしかなかったのだ。
(ああ……そうか。本当に、これっぽっちも、としてのなど持ちわせていなかったのだな)
胸の奥底で、かつて夫に抱いていたの残滓が、完全に消滅した。
しみも、悔しさも、もはや湧きがってはこない。
ただ、の夜空のように澄み切った、絶対な酷さが、私の理性を支配していた。
私は呼吸をつし、スマートフォンの話帳をいた。
そして、これまで決して私用で使うことのなかった、ある極秘の連絡先をタップした。