"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第10話
全部をテーブルにす
それからの約は、私と希にとって「徹底なすりわせ」のとなった。
以の私であれば、恋同士ので資産や預額の話をするなど、何としても避けたかったはずだ。額の寡をられた瞬、相の態度や関係性に亀裂が入るのではないかと怯えていたからだ。
だが、ある休の午、私は自宅のアパートのさなテーブルのに、包み隠さずすべての類を並べた。
「これが、今の会社の源泉徴収票と直の与細」
「うん」
「これが個名義の普通預と定期預の通帳のコピー」
「うん」
「そして……これが神グループの保株式数と、直の価評価額の類だ」
類の数字を追った希が、瞬だけ目を丸くした。
「……像していたより、桁くらいいわね」
「俺も、これまでは直しないように目を背けていたんだ」
私は淡々と説を続けた。
どれだけの配当がているのか、売却した際にかかる税率や制約、そして会社の業績によって評価額がどう乱するのか。
「ただし、俺はこの配当や株式の資産価値を、の活費の提には組み込みたくないんだ」
「どうして?」
「今の自分ので稼ぐ料だけで、にのついた常活を成りたせたいからだ。この株式は、俺個の私腹を肥やすための具ではなく、神グループの経営に対して責任を持ち続けるためのものとして別枠で管理したい」
広告
「もし、会社の業績が悪化して、株の価値がゼロになったら?」
希の現実な問いに、私は迷わず答えた。
「そのは株の価値が消えるだけだ。俺たちの活は、俺と希の料で回している限り破綻しない。だから、将来を買うにしても、実の資産をあてにした額な宅ローンを組む気は切ないよ」
希は元のスマートフォンで卓アプリをちげ、テキパキと数字を打ち込んだ。
「じゃあ、基本な活費と貯蓄のペースは、今のの取り収入をベースに試算しましょう。浮いたおは将来の子どもの教育費や予備費に回すとして……」
その際の良さと、拍子抜けするほど静な反応に、私は胸を打たれた。
莫な資産のをっても、希の私を見る目は何つ変わらなかった。急に価なブランド品をねだることもなければ、逆に「そんな汚れたおはいらない」と潔癖に拒絶することもない。ただ夫婦として向きうべき「つの客観なデータ」として、淡々と受け止めてくれたのだ。
隠し事をしないということは、相を無条件に信じるということであり、相に判断の主権を渡すということなのだと、私はこの歳になってようやく理解した。
希もまた、川の実について詳しく打ちけてくれた。
川には代々受け継がれてきた広なや同族企業の信託資産があるが、それらは決して希個が自由にしていい富ではないこと。
広告
女の由紀さんが婚、実からしれたで自して静かに暮らしていること。
母親の真子さんが将来齢になった際、誰がどのように介護や見守りを担うのかという族の取り決め。
そして希自、川グループの関連企業には切入社せず、現の職でキャリアを積み続けるがあること――。
「お父さんね、昔はお姉ちゃんだけじゃなくて、私にもグループ企業に入ってほしいとっていたみたい」
「今は?」
「何も言わないわ。お姉ちゃんのことがあったから、自分のエゴを娘に押し付けるのは輪際やめようって、必に自分を戒めているみたい」
は、過ちから学び、変わることができる。
それは川宗郎も、私の父である神征司も、そして何より私自も同じだった。
神グループの取締役会にも、私は株主のとして定期に見を提し、に度は父の執務を訪れて対話をねた。
改革は筋縄ではいかなかった。親族役員の反発は凄まじく、社取締役の導入についても父は最まで難を示し続けた。
そのたびに私たちは激しく議論した。
『のを経営枢に入れて、会社を引っ掻き回されたらどうするんだ!』
『からの監の目が入らない密経営を続けている方が、現代のでは遥かに危険です!』
以の私なら、父が声を荒らげた瞬に席をっていただろう。
だが、今の私は逃げなかった。父が拒絶すれば、翌にはより精緻な分析のデータを用して再び机に置いた。
対話を諦めない姿勢を崩さずにいると、頑固徹だった父の態度にも、しずつ綻びがじ始めた。見をごなしに否定するに、まず分い資料を最まで黙って読み通すようになったのだ。
あるの面談の終わり際、ちがった私に父が背越しに言った。
「……おの会社が発した型の搬送ロボットの周辺ユニット、械学の業界誌に特集されていたな」
驚いてを止めた。
「見てくれたんですか?」
「たまたま目に入っただけだ。……無駄のない、堅いいい設計だった」
それが、器用な父なりの最の賛辞であることは痛いほど分かった。
私はもう、父を否定することで自分の自を証する必はなくなっていた。
神のにまれた過も、今の町のような職で油にまみれる現も、その両方が紛れもない「私」の部なのだと、胸を張って肯定できるようになったからだ。