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"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第8話

父との再会

父・神征司と対峙するに、私は自分がなぜあの会社をびしたのか、の澱を削ぎ落として事実だけをノートにき殴った。

学院を修、私は創業の男として、何の疑問も抱かずに神グループへ入社した。

就職活の経験すらない。父からは「いずれ会社を継ぐのだから、まずは製造の最線をれ」と命じられ、産技術部へ配属された。

仕事そのものは、から面かった。

産業械の精密な図面、ミクロン単位の加精度、過酷な稼働環境に耐えうる処理の選定。何より、現の熟練たちが何を誇りとし、どんな設計を嫌うのかを肌で学ぶ々に、い応えをじていた。

だが、現をればるほど、神グループという組織に根く巣う「創業の傲な体質」が耐え難くなっていったのだ。

能力や実績とは無関係にわれる親族役員たちの優遇事。

請けの協力会社に対する、方で理尽なコスト削減の。

現の技術者が血の滲むいでげた全改善の提案よりも、役員たちのメンツや期な利益が優先される歪んだ決定。

若かった私は、臆することなく何度も噛みついた。

『こんな請け叩きを続けていたら、技術の基盤そのものが崩壊します!』

『親族だからという理由だけで無能なを役員に据えるのはやめるべきです!』

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だが、父の返答はいつも同じだった。

『青臭い理を喚くな。会社を継いでトップにってから言え。今は俺のやり方に黙って従え』

自分の見のなど、誰も見てくれていなかった。

最は必ず「会の息子の反抗期」として処理される。

の川グループとの会議で、私がたったで検査程の守を訴えたもそうだった。社内では『会の御曹司だから首がばないだけだ』とを叩かれ、父からは『顧客の嫌を損ねる気か』とされた。

神優馬というの技術者としての尊厳など、そこには最初からしなかったのだ。

あの夜、父の斎で言い放った言葉を今でも鮮に覚えている。

『俺は、神の具じゃない。の技術者として正当に評価されたいんだ』

聞から目をさない父は、淡に言い放った。

『おが神のにまれた事実は変えられん。使える駄があるなら履いて歩けばいいだろうが』

『俺は、その駄が嫌なんだ!』

『なら会社を継いで、おので変えればいい。おを継者にするために、俺がどれだけのレールを敷いてきたとっている』

『俺が会社を継ぎたいかどうか、度でも俺のから聞いたことがあるのか!?』

父は聞をゆっくりと畳み、底理解できないといった顔で私を見据えた。

『……聞く必があるのか?』

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その瞬、私ので何かが完全に断ち切れたのだ。

か、私は退職届を叩きつけ、用されていたタワーマンションの鍵を返却し、つでをびした。

父はり狂い、『で野垂れにそうになっても、絶対にをげて戻ってくるな!』と鳴り散らした。

それから数、私は実との連絡を完全に断絶した。

だが――川宗郎に指摘されて初めて、自分の欺瞞に気づかされたのだ。

私は親のレールを拒絶しながら、贈与された神グループの株式だけは名義をそのまま放置し、いざというの全網として温していた。

神という名の圧からは逃げしたいが、その恩恵である巨額の資産価値だけは無自覚に懐に忍ばせていたのだ。

どれほど都のいい「自」だったことか。

私は数ぶりに、神グループの分い決算報告、定款、株主名簿、役員構成比率の資料を取り寄せ、連夜にわたって読み込んだ。

そして、今の自分の全全能を注ぎ込み、冊の提案を作成した。

『神グループ・コーポレートガバナンス改革案ならびに株主提案』。

独社取締役の過半数導入。

創業親族の役員登用基準の文化と厳格化。

取引先との共共栄を担保する取引ガイドラインの策定。

そして、品質管理・コンプライアンス部の取締役会直属化による独性化。

会社へ戻るつもりはない。社を継ぐ気も切ない。

だが、株主としての角を占めている以、私はその権利に伴う責任を、部から全うする義務があるのだ。

完成した類を鞄に収めた、指先が微かに震えていた。

数ぶりに訪れた神グループ本社ビルのには、見慣れたガラス張りの巨塔が聳えっていた。

かつては自分のを縛り付けるたい檻のように見えていたその建物へ、私は今、逃者ではなく、の独したとしてを踏み入れた。

受付で分を告げると、女性社員が目を丸くして息を呑んだ。

事に入れておいたアポイントに基づき、最階の会へと案内される。

な製ドアをノックする。

「入れ」

懐かしい、く濁った声。

ドアをけると、広な執務の央にある革張りデスクの向こうに、父・神征司が座っていた。

古希を目に控え、髪は段と増えていたが、獲物を射抜くようなの鋭さは何つ衰えていなかった。

父は私を認めるなり、にしていたペンをパチンと机に置いた。

「……戻る気になったか」

番、投げつけられたのはその言葉だった。

かつての私なら、その言でに血を昇らせ、『誰が戻るか!』と鳴り返していただろう。

だが今の私は、ただ静かに向かいのソファへと腰をろした。

「戻るとは言っていません」

父の眉根がピクリとねがった。

「なら何の用だ。の無か?」

「違います」

私は鞄から、丁寧に製本した提案を取りし、テーブルのに滑らせた。

「俺が保している神グループの株式の扱いと、これからの神グループに対する私自の関わり方を、確に理しに来ました」

父は訝しげに目を細め、類の表題を瞥した。

「俺は、神グループの社員として復帰するつもりはありません」

私は父の目を真っ直ぐに見据えて続けた。

「将来に、父さんのを継いで社に就く気も切ない。その志は今も変わりません」

「……ならば、このふざけた提案は何だ」

「俺はこれまで、神の株主という力な権利と全網を懐に残したまま、会社をびし、から実を批判していました。権利に伴う責任から、ただ逃げていただけです。それは技術者としても、の男としても、極めて卑怯なき方でした」

父は無言のまま、私の顔をじっと見つめていた。

「ですから今、私は株主としての責任を真っ当に果たします。社員としてからではなく、部の株主として、神グループの経営を厳しく監・正するで関わらせていただきます」

父の顔が、見るに気で潮していった。

「現を捨てて逃げした若造が、株主面をして経営にをすだと……? ふざけるのもいい加減にしろ! 俺がこの会社をここまできくするために、どれほどの血と汗を流してきたとっている!」

机を力任せに叩く乾いた音が、静かな会に響き渡った。

昔の私なら、その声に震え、に反発していたはずだった。

だが今、激昂する父を見つめながら、私の胸に来したのは奇妙なまでの静寂だった。

(ああ……このもまた、自分が築きげてきたものに縛られ、これ以のき方をらない器用ななのだ)

私は声を荒らげることなく、静かに言葉を返した。

「その話を、今はお互いに納得いくまでしに来たんです。父さん」

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