"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第6話
婚約保留
宗郎の問いに対し、私は何つ言葉を返すことができなかった。
何者として、ここへ来たのか。
希をする、ただの男として――そう先だけで答えることは容易だった。だが、そんな先の誤魔化しが通用する相ではないことは、痛いほど理解していた。
「君は、神が嫌で会社をびしたと言ったな」
宗郎が静かに言った。
「はい……」
「自分の腕本できていくために、あえて別の会社を選んだ、と」
「そうです」
「ならば、なぜ神グループの株式を放さなかった?」
臓がきくねがった。
「それは……将来のためにと、父から贈与の形で渡されていたもので……」
「相当な資産価値になるはずだ。配当だけでも、今の君の収を遥かに超えているのではないかね」
「……はい。ですが、その配当には切をつけていません。別の座にプールしてあります。々の活は、今の会社の料だけでやりくりしています」
それが、自分なりの「自の証」だとい込んでいた。
だが宗郎は、その浅な言い分をあっさりと切り捨てた。
「つまり君は、実と縁を切ったような顔をしながら、法な権利と全網だけはしっかりと元に残していたわけだ」
「完全に縁を切ったなどとは言っていません!」
わず語気がくなった。
「私は親の敷いたレールをり、自分の志で今の職を選びました。
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親の援助など円も受けずに活しています!」
「それは結構なことだ」
宗郎の表は微だにしなかった。
「だが、それと君が過から逃げ続けているかどうかは、全く別の問題だ」
「逃げてなどいません!」
「では聞くが、君は本当に自らの志で今の会社を『選んだ』のかね?」
宗郎の声は、どこまでも平坦だった。
「単に、神の響力が絶対に及ばない、最もい逃げ所を探しただけではないのかね」
腹の底がカッとくなった。
自分がこの数、歯をいしばって積みねてきた努力を、根底から否定されたような屈辱を覚えた。
「……何が言いたいのですか」
「逃げることそのものが悪だとは言わん」
宗郎はじることなく、静かに言葉を続けた。
「には逃げなければが壊れてしまうこともある。親であれ会社であれ、距を置くことで初めて息ができるがいるのも事実だ。……だが、自分がしいを切り拓いたのか、それとも過から目を背けて逃げ回っているだけなのか。その違いを自分自で正しく認識できていなければ、はにめんよ」
痛烈な言葉が、胸の奥くに突き刺さる。
振り返ってみれば、今の会社を選んだ最のは「この会社でこういう械を作りたい」というよりも先に、「神グループと資本関係も取引関係も切ない所へ逃げ込みたい」
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という消極な理由だった。
父の名が届かない所、自分の過をるがいない所――そればかりを必に探していたのだ。
「そして、今の君のみっともない姿だ」
宗郎の鋭い差しが、私のスーツを射貫く。
「君は、自分を清貧に見せたかったからそのを着たのではない。神の息子であるという自らのルーツを、都よく塗り潰したかっただけだ」
「違います……!」
「ならばなぜ、普段通りのなりで堂々と来なかったのかね?」
答えに詰まる私を、宗郎は容赦なく見据えた。
「本当に自分の力だけでつの技術者だと誇りを持っているなら、普段のスーツを着て、普段の計をつけて来ればいい。神のにまれた過があろうと、株を持っていようと、それらすべてを背負ってこその『神優馬』だろうに。……君は自分で自分の過を恥じ、都の悪い部分を切り落とし、別になりすましてここへ来た」
希が、痛ましそうに顔を伏せた。
「そのくせ、相には『ありのままの自分を見てほしい』と求する。……ひどい矛盾だとはわんかね?」
膝ので組んだ私の拳が、くなるほどく握りしめられた。
「神の息子ではない自分を求めながら、神の資産という保険は放さない。普通のサラリーマンだと言い張りながら、いざとなれば莫な富を背負っている。
そしてする娘にはその半分を隠したまま、『本当の俺をしてくれ』と甘える。……都の悪い部分を隠蔽し続けるに、最に何が残るとう?」
宗郎はそこで度言葉を切り、静かに宣告した。
「――空っぽの、誰でもない男だ」
息が止まりそうだった。
どんな罵詈雑言を浴びせられるよりも、その言は私の価値を々に打ち砕いた。
私は神という巨なから自分を守ることに必になるあまり、自分自の輪郭そのものを削り落とし、のない空洞になっていたのだ。
「今は、もう帰りなさい」
宗郎がゆっくりとちがった。
「で、じっくりとをやすといい」
「会……!」
「私は、娘の結婚相を柄や資産で決めるつもりは毛ない」
宗郎は希を瞥し、再び私へ線を戻した。
「だがね、自分が何者であるかすら引き受けられない覚悟のない男に、切な娘を託す気など微もないよ」
私はに膝をつきそうになるのを必に堪え、くをげた。
「……申し訳、ありませんでした」
希に向き直ろうとしたが、彼女は頑なに線を伏せたまま、決して私と目をわせようとはしなかった。
何かを言いたかった。から詫びたかった。
だが、今の私がどんな言葉を紡いだところで、それは自己保のための言い訳にしかならないことが分かっていた。
結局、私はで川の敷をにした。
背で、な造のが々しい音をてて閉ざされる。
初のたいが吹き抜ける帰り、数まで自分が誇りを持って歩んでいたはずののすべてが、っぺらな借り物のようにえてならなかった。