"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第5話
空っぽの男
「俺は、神グループの創業のなんだ」
言葉としてから吐きすほどに、現実がれていくような奇妙な覚に襲われた。
もの、する恋に隠し続けてきた自らの自を、よりによって彼女の父親の敷の広で、追い詰められるように状している。
「父が現もグループの会を務めている。創業の資産管理会社を通じて、俺の名義になっている自社株も相当数ある」
希は膝ので両を握りしめたまま、微だにせず私の言葉を聞いていた。
「でも、数に会社を辞めたのは本当だ。今の職のことも、んでいる部のことも、取りの料のことも、何つ嘘はついていない。親からの援助は切断ち切って、今の会社の料だけで活しているんだ」
必になって「すべてが嘘だったわけではない」と言い訳をねている自分に気づき、けなさで胸が張り裂けそうだった。
希が、静かに、けれど鋼のようにい声で尋ねた。
「……どうして、辞めたの?」
「神の息子として扱われるのが、耐えられなかったんだ」
私は絞りすように答えた。
父の会社にいる限り、自分がどれほど現で汗を流し、図面を引き、成果をしても、周囲からは「さすが会の御曹司だ」としか見られない。
逆にしでもミスをすれば、「創業の息子なのに頼りない」
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とを叩かれる。
自分の実力や性そのもので評価される所へきたくて、私は父と喧嘩の末に会社をびしたのだ。
「だから今の会社では、実のことなんて誰にも話していないし……」
「私にも?」
希が、まっすぐに私の瞳を射抜いた。
「……うん」
「付きっていた、ずっと?」
「……うん」
「結婚しようって、お互いに将来の話をしてからも?」
息が詰まりそうだった。
「言うタイミングを……ずっと見計らっていて……」
「それ、本当に『タイミング』の問題だったの?」
希が初めて、私の言葉を遮った。
声を荒らげたわけではない。だが、その瞳の奥には、これまで見たこともないほど鋭くたいりが燃え盛っていた。
「優馬。私が今ショックを受けているのはね、あなたの実がお持ちだとか、お父さんが企業の会だとか、そんなことじゃないの」
「分かってる……」
「いいえ、分かってない!」
希は私の擦れたスーツの袖を、侮蔑を込めて指さした。
「今、その……わざわざ選んで着てきたんでしょう?」
私は黙り込むしかなかった。
「普段のお気に入りの計も、にわざと置いてきたのよね」
「……ああ」
「なんで? 何のためにそんなことをしたの?」
逃げを完全に塞がれた私は、観して本当のをにするしかなかった。
「君の……ご両親が、俺のことを収や柄だけで判断するようなたちじゃないか、確かめたかったんだ」
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言った瞬、自分のからた言葉の醜悪さに、胃の奥が激しく痙攣した。
希は数秒、息を止めて私を見つめていた。
「確かめる……? 私のご両親を?」
「これまで、俺のをった途端に態度を骨に変えるを、嫌というほど見てきた。だから……もし君のご両親が、相の肩きや資産だけで娘の結婚相を選ぶようなたちなら、この結婚そのものを考え直した方がいいとったんだ」
希の表が、見るに凍りついていった。
「……じゃあ、今のこれは、あなたによる『試験』だったわけね」
「そんなつもりじゃ……!」
「そういうつもりじゃない! みすぼらしいスーツを着て、古びた靴を履いて、計をして……『さあ、貧乏な私を見てどんな顔をするか見物だ』って、値踏みしにきたんじゃない!」
返す言葉など、文字もしなかった。
まさに、彼女の言う通りだったのだ。
「私も、なの?」
希が震える声で言った。
「え……?」
「私のことも、ずっと試してたの?」
「違う! 希のことは信じて――」
「嘘をつかないで!」
希は線を逸らさず、涙の膜が張った瞳で私を睨みつけた。
「もの、実のことを頑なに言わなかったのは、『もし神の御曹司だとったら、こいつもお目当てに変わるんじゃないか』って、私のことをずっと疑っていたからでしょ!?」
喉の奥に、太い鉄の杭を打ち込まれたような衝撃がった。
「それは……」
「私は、あなたにずっと試されていたんだね」
その言が、私の胸を容赦なく抉った。
「違うんだ、希。俺はただ、柄やにされない、ありのままの自分を見てほしくて……」
「ありのまま!?」
希が、痛な自嘲の笑みを漏らした。
「自分のの半分を隠して、都のいい仮面を被っているが、よくそんな言葉をにできるわね!」
私は完全に言葉を失い、項垂れた。
応接の座に座る川宗郎は、切を挟まなかった。娘の肩を持つわけでも、私を鳴りつけるわけでもない。ただ絶対な静寂ので、私が何を語るのかを徹に見据えていた。
「希、俺は君を疑いたかったわけじゃないんだ……」
「怖かったんでしょう?」
「……」
「自分が傷つくのが、怖かっただけよ」
核を、寸分の狂いもなく突かれた。
「だから、自分にだけ都のいい全な箱庭を作ったのよ。実の力を隠して、貧相ななりをして……それでも好きでいてくれるならできるからって。でもね、それって私を信じたことにはならないわ。あなたは、ただ自分を守るために、私を欺いていただけよ!」
希の瞳から、粒の涙が零れ落ちた。
「私はね、あなたを信じて今ここへ連れてきたの。お父さんがどんな仕事をしていて、うちがどれほどきなかも、細かくは話さなかった。でもそれは隠したかったからじゃない。
必になったに、で緒に話せばいいとっていたからよ。……でもあなたは、必になっても私に打ちけるつもりなんて、最初からなかったのね」
「そんなことはない……」
「じゃあ、いつ話すつもりだったの!? 結婚式を挙げる? 籍を入れた? それとも、子どもがまれた!?」
答えられなかった。
私自、そんな先の具体なことなど何つ考えていなかったのだ。ただられないまま、全圏に引きこもっていられればそれでいいと、考止していたに過ぎない。
その、腕を組んで黙して聞いていた宗郎が、ゆっくりと体を起こした。
「神優馬君」
私は弾かれたように顔をげた。
「……はい」
「私はね、君が神の息子だから腹をてているのではない」
く、静かな声だった。
「むしろ、の現で見せた君の気骨を、私はく評価していたのだよ」
胸の奥が、ぎゅっと軋んだ。
「だからこそ、問いたい」
宗郎の双眸が、私の魂の奥底を覗き込むように据えられた。
「君は今――体、何者としてこの敷の敷居を跨いだのだ?」
を咀嚼できず、私は言葉を詰まらせた。
宗郎は容赦なく言葉をねる。
「神から逃げした被害者か。さな会社で糊をしのぐ実直な技術者か。あるいは、いざとなれば莫な配当を受け取れる株主か。それとも――希と涯を共にしたいと願う、の男か」
語語が、鉛の弾丸となって私の胸にめり込んでくる。
「君は自分の都にわせて、自分の部分だけを切り取って者に見せている。都が悪くなれば隠し、同を買いたくなれば貧相を装う。……そんな途半端なに、どうして私の娘のを背負う覚悟があると言えるかね?」
希もまた、唇を噛み締めて俯いていた。
宗郎は最に、トドメとなる徹な言を突きつけた。
「それとも君自、自分が何者なのか、いまだに見失ったままなのではないかね?」
その瞬。
私はまれて初めて、自分がこれまで頑なに隠してきたものが「神の板」などではなく、自分自のさと向きう覚悟のなさだったという事実に、打ちのめされていた。