"貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた" 第4話
「私を試してたの?」
「まあ、ったままでは話もできん。座りなさい」
宗郎に促され、私は操り形のようにソファへ腰をろした。
希も私の隣に座り直したが、先ほどまでの穏やかな温もりは完全に消え失せていた。彼女の張り詰めた線が、父親と私のを激しくき来している。
「お父さん、どういうこと? 優馬とりいなの?」
宗郎はすぐには答えなかった。
運ばれてきた湯呑みを度に取り、茶を含むと、静かに私を見据えた。
「神優馬君」
その静かな呼びかけだけで、もういかなる言い逃れも通用しないことが分かった。
「ほどだったかな。川の製造子会社と神グループので、次世代産ラインの共同導入プロジェクトがちがったことがあった」
臓がねがった。
覚えている。忘れるはずがなかった。
当歳だった私は、まだ父の会社にを置いていた。
神グループの産技術部で、規設備の設計と品質管理を担当していたのだ。
川系列の企業から型設備の発を受注したものの、納期が極めて逼迫し、発の終盤で川側から「納期縮のため、部の耐久検査程を簡略化してほしい」という請が入った。
コストも期も幅に削れる提案だった。神側の役員たちは、相が超の川グループということもあり、波をてまいとつ返事で受け入れようとした。
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社内会議の席、役員全員が賛成に回る、たっただけちがって鳴り声をげたのが、私だった。
『その程を削れば、荷にな初期良を見逃すリスクが数パーセントねがります! 万がの事故が起きた、現の作業員を危険に晒すのはうちの設備なんですよ!』
若気の至りだったかもしれない。だが私は、相が巨企業だろうが自社の役員だろうが関係なく、膨な計算データと疲労のシミュレーション資料を机に叩きつけ、頑として譲らなかった。
役員には激され、、父の征司からもこっぴどく叱責された。
それでも私は仕様変更を拒み続け、最終に川側の技術責任者がこちらのデータ面を再検討し、検査程は守されたのだ。
技術者として、ただ当たりの筋を通しただけの来事だった。
「まさか……」
私は呆然と宗郎を見つめた。
「あの会議のことを、会がごじだったのですか……?」
「っているとも」
宗郎は淡々と頷いた。
「私は直接そのにてはいなかったが、担当役員から『神に、親会社の顔も伺わずに最まで噛みついてくる骨のある若い技術者がいる』と詳細な報告ががってきていたからね」
希が息を呑み、私を見た。その瞳には、い当惑のが広がっていた。
「面い男がいるものだとったよ。
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普通、あのような請け構造では、元請けの向に逆らえるなどいない。まして君は、神グループの創業の直系だ。社内のなどいくらでも守れるはずなのに、自分の役員たちを敵に回してまで現の全を主張した」
宗郎の静かな語りが、私の胸を抉っていく。
「、私が察に赴いた際、目から君の働く姿を見た。君の名も、その真っ直ぐな目つきも、私ははっきりと覚えていたよ」
そこで宗郎は、私の汚れたスーツへとややかな線を落とした。
「だからこそ、希から『今、神優馬さんという方を連れてくる』と聞かされた、まさかとはいながらも胸騒ぎがしたのだ。……だが、いざ対面してみれば、この体たらくだ」
私は言も発することができなかった。
「、あれほど堂々と自らの信を語っていた男が、わざわざ引っ張りしてきたような擦り切れたスーツを着て、借りてきた猫のようにさくなって座っている」
宗郎の元に、嘲るようなたい笑みが浮かんだ。
「腕の計までして……体、何のつもりだ?」
首が、焼けるようにかった。
希の線が、私の何もない首に突き刺さる。
「あ……」
彼女のから、掠れた声が漏れた。
彼女は今、ようやく悟ったのだ。私が今、図して普段と全く異なるみすぼらしい姿を演じてここへやってきたという事実に。
「……優馬」
希の声は、く、たく張っていた。
「どういうこと……? お父さんの言ってること、本当なの?」
「……希」
「答えて。優馬は……神グループのなの?」
「……以は、あそこで働いていた」
「どうして……どうして、度もそんなこと言ってくれなかったの?」
鳴り散らされたわけではなかった。
ただ静かに、傷ついた声で問いかけられたからこそ、胸を刃物で裂かれるよりも痛かった。
私は希に対して「さな設計会社に勤める、しがないサラリーマンだ」としか伝えていなかった。それ自体は現の事実ではある。だが、そこに至るまでのいちも、背景も、すべて都よく切り捨てていたのだ。
宗郎が、然と言い放った。
「どうやら娘には、神の御曹司である事実を切伏せていたようだな」
もう、逃げはどこにも残されていなかった。
私はく息を吸い込み、震える唇をいた。
「希……ちゃんと、最初から話す」
だが、どこから説すればいいのか。
父が神グループのトップであること。自分が創業の男であること。今なおグループの巨額の株式を保していること。数に父の独裁な経営方針に反発して実をびしたこと。
そして何より――。
今この、希の両親が娘の相を資産や柄で値踏みするかどうかを試すために、あえて粗末な格好をしてやってきたこと。
をけばくほど、自分というの卑さと傲さがわになっていく。
それでも、ここでを閉ざすことは、それ以に卑怯だった。
「俺の父は……神グループ会の、神征司だ」
希の瞳がきく見かれた。
「神グループの……あの……?」
私が力なく頷いた瞬。
彼女の顔から、驚きよりも先に、決定な何かがすうっと消え失せていくのが分かった。
それは、彼女が私に対して抱いてくれていた、混じりけのない「信頼」だった。