"大正、子守奉公の少女" 第13話
読めない絵本
「今は絵を見ながら、お話ししようか」
私はそう言って、絵本をいた。男の子は素直に頷いたが、ページをめくるたびに「そこは違うよ」と教えてくれた。学で習ったばかりの文字を、彼は指でたどりながら読んでみせた。私は笑って褒めたが、のではけなかった。
自分が世話をする子どもに、教わっているのだから。
その夜、私は眠れなかった。にいたころ、学へく同じごろの子を背の赤ん坊越しに見送った。京の敷では、を読むたびにに頼った。字が読めなくても働くことはできる。
けれど、読めないためにの言葉を借りなければならない面が、あまりにかった。
翌、私は古い聞を枚もらった。まず、っている文字を探した。自分の名に使う字、名の部、数字。読めないところは、学へく男の子が使っている教科の文字と見比べた。仕事のに聞をいていると、女主が「何をしているの」と尋ねた。
私はい切って「字を覚えたいのです」と答えた。
女主はし驚いたが、叱りはしなかった。「それなら、まず仮名をきちんと覚えなさい」。そう言って、子どもが使い終えた練習を分けてくれた。私は夜、自分の部で文字ずついた。
指先には針仕事や仕事でできたさな傷があり、鉛をく持つと痛んだ。
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それでも、いた文字がのに残るのを見るのは嬉しかった。
最初は「い」と「り」を取り違え、「ぬ」と「め」を何度もき直した。カタカナは板で見かけるので、しずつ形を覚えた。読めない文字を男の子に尋ねると、彼は得そうに答えた。私が違えると笑ったが、悪気はなかった。
「昨より読めるね」と言われたには、子どもに褒められたことが恥ずかしいのに、嬉しくてたまらなかった。
字をし読めるようになったころ、私は母へ自分でをいた。最初は挨拶のにいがかかり、同じ字を何度もき直した。女主に見てもらうと、か所だけ直された。私はきれいなに写し、封筒へ所をいた。
郵便へすとき、胸がどきどきした。誰かに代わりにいてもらった言葉ではなく、私のからまれた言葉がを渡っていくのだ。
しばらくして母から返事が来た。「おの字でが届いて嬉しかった」とあった。私はその文を何度も読み返した。字を覚えたのは男の子の絵本を読むためだったが、いつのにか母とのにもしいができていた。
私が自分の言葉で況を伝えられるなら、母もしはするだろう。私は次のに、旅順のの寒さと、子どもたちの元気な様子をこうと決めた。
ある晩、女の子がをした。
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医者を呼ぶまでの、私は額をやし、をませ、そばについていた。男の子は配して部をのぞき、「妹は丈夫」と何度も聞いた。私は「今は眠っているよ」と答え、彼のを握った。
学で習った字を教えてくれるさな先も、こういうときには相応の子どもに戻るのだった。
ががった翌朝、男の子はまた絵本を持ってきた。「昨の続き、読める?」。私はし迷ってから本をき、ゆっくりと最初のを読んだ。途で詰まり、男の子に助けてもらった。それでも最まで読み終えると、彼は「もう回」と言った。
私は喉が痛くなるまで読んだ。誰かに頼まれた仕事なのに、そのだけは自分のために学んでいる気がした。
聞にかれた言葉も、しずつを持ち始めた。い町の来事、物の値段、の便。これまではに読んでもらうしかなかった世界が、のから自分の目へ入ってくる。
私は帳面にしく覚えた字をきした。そこには、送ったの記録だけでなく、私自が増やしたものも残るようになった。