"大正、子守奉公の少女" 第6話
青の台所
青の敷では、朝の仕事が始まるに湯を沸かしておかなければならなかった。主が起きる刻にわせてを調え、女主の湯呑みを温め、客が来れば別の茶器をす。私にはどの器も同じに見えたが、女は棚のの位置まで覚えていた。
「これは普段のもの。こっちはお客様用。取り違えないで」。私は指を折りながら覚え、夜、寝で順番をい返した。
初めて噌汁を作らせてもらった、私は根をく切りすぎた。では畑で採れたものを惜しまず鍋に入れたし、子守り先では包丁を持つ会さえなかった。女は鍋をのぞいて「が通るまでがかかるでしょう」と言った。
私は叱られるのが怖くて黙ったが、彼女は本の根を取り、刃をどう入れれば揃うか見せてくれた。
次のはく切れた。さらに次のは、よりしく切れた。誰にも気づかれないほどさな違いだったが、私はその違いを覚えておきたかった。背負った子が泣きやむかどうかは、自分の力だけでは決められなかった。
けれど包丁の使い方なら、昨より今、今よりと確かに達できた。
敷には入りの商や客がかった。玄関先で聞く言葉は、故郷の訛りとは違っていた。私は「そうですか」と言うつもりで、いつもの調子で「そうだか」
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とにしてしまい、若い女に笑われた。
顔がくなって黙り込むと、女はあとで「直せばいいだけだよ」と言った。私はそれから、に入った言葉をのときに繰り返すようになった。
敷で客がなった、私は茶を運ぶ盆を傾けてしまった。幸い湯呑みは落ちなかったが、茶がし畳にこぼれた。私は真っ青になって謝った。女は客を待たせないよう別の盆をし、あとで私に布巾の絞り方と、盆を運ぶときの指の置き方を教えてくれた。
失敗したことを隠さずらせれば、取り返せることもあるのだとった。
その夜、私はで空の盆を持って廊を歩いた。曲がり角ではを止め、湯呑みが乗っているつもりで両を支えた。女が通りかかり、「何をしているの」と笑った。私は恥ずかしかったが、練習していると答えた。
翌の客のでは、盆をまっすぐに運べた。さな成功だったが、自分の夫で失敗を減らせることが嬉しかった。
奉公先の主は私に関を示さなかったが、女主は客ので使いを頼むことがあった。皿を運び、がるときに背を向けないようにする。何度も失敗したが、ある夕方、女主が「今はよかった」とく言った。私はその言葉を聞いて、湯呑みを落としそうになった。
褒められたことより、見ているがいたことに驚いたのだ。
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休みのには、のへる許しがた。通りには子をかぶった男や、装の女が歩いていた。先には見たことのない菓子が並び、の音がくから聞こえる。私はつひとつを眺めたが、何も買わなかった。
使える遣いがないという理由もあったし、見らぬで声をかける勇気もなかった。
帰り、私はさな片を拾った。何かのの広告らしく、絵の横に文字が並んでいた。絵は分かるが、文字はところどころしか読めない。私は片を折って懐に入れた。誰にも見せなかったのは、字が読めないとられるのが恥ずかしかったからだ。
けれど捨てなかったのは、いつか読めるようになりたいとったからだった。
そんなある、女主が客と話しているのをにした。「あの子なら、のでもやれるでしょう」。私のことだと気づくまでしかかった。ようやくこの台所の鍋や器の所を覚えたばかりだった。
女は私の顔を見ると「今度はもっときなお敷だよ」と言った。私には、それがぶべきことなのかどうか分からなかった。