"昭和62年、国鉄最後の日に駅弁を一つ売らなかった理由" 第16話
の改札
の朝、私は午分に目を覚ました。
目覚まし計が鳴るだった。窓のはまだ真っ暗で、隣で眠る良治の寝息だけが聞こえた。今が終われば、駅へ弁当を運ぶためにこのに起きる必はなくなる。
そうったら、し寂しくなった。
台所へくと、フミさんがもう来ていた。いつものい割烹着に袖を通し、鍋のにっている。
「いね」
「寝坊したら、最まで言われるだろう」
「私もく起きちゃった」
「のの子どもみたいだね」
で笑い、米を研ぎ始めた。
今は百個。朝に個、午の列にわせて個を追加する。いつもの弁当のほか、最だからと鶏肉を増やすつもりはなかった。値段も百円のまま。特別なのは、掛の端にさく《昭》と入れたことだけだった。
「記だからって、を変えちゃだめよ」
私が言うと、フミさんは頷いた。
「いつもので終わるのがいい」
午、駅へ着くと、改札のにすでに写真を撮るがいた。国鉄の制を着た駅員をくから写す、列の刻表をノートにく、親子で横断幕のにつ。普段なら急ぎで通る所に、がち止まっていた。
岡崎駅は忙しそうだった。私を見ると、度だけをげた。
「宮原さん、今はよろしくお願いします」
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「こちらこそ。以、お世話になりました」
「挨拶は閉のあとにしましょう。まだあります」
その言い方が嬉しかった。
を過ぎると、弁当が次々に売れた。いつもの張客が個買い、見らぬ若者が掛を写真に撮ってから個買った。駅員のは、夜勤けなのに族の分を個持って帰った。
「今は忙しいねえ」
フミさんが釣り銭を数えた。
「忙しいほうが、泣かなくて済むわ」
私はそう答えた。
午、駅の清掃を請け負う会社のが来た。毎週個買ってくれていた担当者だ。から注文がなくなることを、申し訳なさそうにしていた。
「今で最ですから、皆で個ずつ」
「ありがとうございます」
「うちも来からが減るんです。駅の掃除は続きますけど、働く所が変わるもいます」
私は頷いた。自分だけが代の変化に押されているわけではない。
正午、野崎さんがしい定期券を見せに来た。
「からは、こっちへ乗ります」
「朝ごはん、ちゃんとべてね」
「妻に言われるみたいだ」
「奥さんも同じことを言うなら、聞いたほうがいい」
野崎さんは笑って弁当をつ買った。
昼過ぎ、私はいったんへ戻った。午の個を作るためだ。午の売は予定を回り、残りはわずかだった。美さんが掛をそろえ、良治が運搬箱を洗っていた。
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「澄さん、あと何個作る?」
「予定どおり。増やさない」
「売れそうなのに?」
「最だからって、無理して作っても、の仕事ができなくなる」
自分のからそんな言葉がたことに、私は驚いた。
午、追加の弁当を詰めた。鶏めしの匂いが台所に満ちた。フミさんは最の卵焼きを切り、美さんは最の掛を巻いた。良治が箱の底を確かめる。
「百、そろったな」
「つだけ、別にしておいて」
私は最の個に、黄い輪ゴムを本掛けた。
「予約が入ってるの?」
良治が聞いた。
「ううん。私が買うの」
「自分で作ったものを?」
「そう」
良治は変な顔をしたが、それ以は聞かなかった。
駅へ戻ると、改札のだかりは朝よりきくなっていた。しい代を迎えるために来たも、古い代を見送るために来たも、同じ計を見げていた。
私は売にち、いつもの声をした。
「鶏めし弁当、いかがですか」
今で最だという言葉は、まだ言いたくなかった。