"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第13話
男の傲と砕かれた世体
「……俺が、違っていたんだ」
父のから絞りされたその言は、あまりにもさく、けない響きを帯びていた。
「違っていた……? 何がよ」
「全部だ。俺の考えも、き方も、父親としての振るいも……全部が、救いようのない違いだったんだ」
父は力なくをげ、私ののにある通帳を見つめた。その目には、じわりと涙が滲んでいた。
「あの……おが学にきたいと言いした、俺は本気で『女に学問なんか必ない』とっていた。官の職仲や、親戚の寄り連がいつも言っていたんだ。『娘なんてのは、若いうちに器量のいい相を見つけて、しっかりしたに嫁がせるのが番の親孝であり、番の幸せだ』ってな。それが世の常識で、それが娘のためをってやる唯の正解だと、俺は信じて疑わなかった」
父の声は、自らの浅ましさを告発するように震えていた。
「おが持ってきたあの計画ノートも、奨学の話も、見ようともしなかった。見ちまえば、俺のちっぽけな『男の』と『のメンツ』が崩れちまうのが怖かったんだ。『親の敷いたレールに従え』と鳴り散らして力でねじ伏せることが、父親の威厳だと勘違いしていたんだよ」
私は言葉を失い、ただ父の告にを傾けていた。
「佐々から縁談が来た、俺はびついた。
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あそこは昔からの主で、も畑も持っている。あそこへ嫁にけば、おがうに困ることはない。『これで親としての責任は果たした、娘に最の結婚相をあてがってやった』と、本気で胸を張っていたんだ。あの万円の結納も、決して売ったわけじゃない。あっちので何かあった、おが逃げ帰ってこられるように、いざというの持参としてそのまま通帳に入れて保管しておいたんだ」
「……だったら、どうしてそのもおを入れ続けたのよ。どうしてこんなになるまで、毎毎振り込み続けたのよ」
私の震える問いに、父は顔を両で覆い、肩を激しく震わせた。
「……お母さんから、聞いたんだ」
覆われたのひらの隙から、くぐもった声が漏れた。
「おが……佐々で隠れて受験勉を続けて、国学に受かったってを読んだだ」
私の脳裏に、学のにしたあの通のが蘇った。
「最初は、鳴り散らしたよ。『嫁にった分で、なんて勝な真似をしやがるんだ』『向こうのにわせる顔がない』ってな。だがな……母さんから、向こうのがおをどう迎えてくれたかを聞かされた、俺は……俺は、を槌で殴られたような衝撃を受けたんだ」
父の指の隙から、粒の涙がポロポロと面のにこぼれ落ちた。
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「血の繋がりもない、赤のだった佐々のたちが……嫁に来たばかりのおのを認めて、朝くからの仕事を引き受けて、学へ通わせてくれたって聞いた。……実の父親である俺が、『女のくせに』と踏みにじり、万円で厄介払いしたおの希望を、向こうの族が丸ごと抱きしめて、応援してくれたんだ」
父は顔をげ、涙とでぐしゃぐしゃになった顔を私に晒した。かつて度も見せたことのない、惨めで無防備な父親の姿だった。
「恥ずかしかったよ……! けなくて、申し訳なくて、自分がどれほど狭い見で、どれほど傲な怪物だったか、骨の髄までいらされた! 俺がおのを潰したんだ。世体だの何だのと偉そうなを利いて、番おを見ていなかったのは、この俺だったんだ!」
父の慟哭が、静かな庭先に響き渡った。
「すぐにでも佐々へを送りたかった! 『娘の学費に使ってください』と座して送りたかった! でも……言えるわけがねえだろうが! あんなに酷い啖呵を切って娘を追いした男が、いまさらどの面げて『父親』の顔をしてをせるんだ! 向こうの親御さんに、どんな顔をしてを渡せばいいんだ!」
父の叫びが、私の胸を激しく抉った。
「だから……せめてもの罪滅ぼしに、毎の現のを、しでも余ればその通帳に入れ続けた。
いつか、おが学をて、になって、このに戻ってきたに……『おのだ、全部持っていけ』と渡すことだけを支えにして、この、官の鏝(こて)を握り続けてきたんだよ……!」
それが、万円の結納と、そのに刻まれ続けた無数の入記録の正体だった。
父は、私を嫌って捨てたのではなかった。
自らの無と傲によって娘のを踏みにじってしまったという、取り返しのつかない罪のさに耐えかねて、誰にも届かない暗ので、きりで器用な「贖罪の輪」を刻み続けていたのだ。