"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第11話
古い茶封筒と枚の
私の絶叫が静まり返った庭先の空気を激しく震わせた、苦しい沈黙がそのを支配した。
初のが吹き抜け、妹の麻紀の机のに積まれた参考のページが、パラパラと乾いた音をててめくれる。父・正は両腕をだらりとげ、眉にい皺を刻んだまま、じっと私の元の面を見つめていた。かつて私を力でねじ伏せ、号つでを震えがらせていた傲なの面はどこにもない。そこには、ただ老いてさくなったの職が、自らの罪を全で受け止め、ち尽くしているだけだった。
「千……やめなさい。もうそれ以、お父さんを責めないでおくれ……」
母・よし子が震える声で懇願するように私の袖を引こうとしたが、私はそのをたく振り払った。私の目は、父の項垂れたから寸もれなかった。
「責めないでって何よ、お母さん! 私の歳からのは、このの理尽ない込みつで全部奪われたのよ! 謝りもしないで、言い訳もしないで、黙っていれば済むとっているの!?」
私の罵声を浴びながら、父はゆっくりとをいた。その声は掠れ、乾き切っていた。
「……すまなかった」
「すまなかった!? たったその言で、私の消えたが戻るとでもっているの!? 私がで凍えそうになりながら自転を漕いで、眠る暇も惜しんで教科にかじりついていたが、その言で帳消しになるわけないでしょう!!」
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私は泣き叫びながら、麻紀の机を激しく指差した。
「答えてよ! どうして麻紀には参考を買い与えて、私には万円の値札をつけて追い払ったの! おが惜しかったからでしょう!? あの万円で、このの借でも返したんでしょう!?」
そのだった。
これまで私の背でおろおろとち尽くしていた母が、を決したように父の元へ歩み寄った。
「お父さん……もう、いいでしょう。これ以黙っていたら、この子は、あんたを殺しみたいにんだままきていくことになるよ」
母の言葉に、父の肩がビクリとねた。父は苦痛に顔を歪め、ぎゅっと目を閉じた。それは、頑なに守り続けてきた沈黙の堤防が、音をてて決壊した瞬だった。
「……好きにしろ」
父が絞りすようにそう呟くと、母はくるりと踵を返し、勝からにのへ入っていった。
取り残された庭先で、麻紀は怯えたように父と私を交互に見つめ、唇を噛み締めていた。私は面に落ちた産の袋を見ろしながら、胸の奥で渦巻く黒い澱を吐きすように肩で息をしていた。何を言われても許すつもりはない。どんな美談や言い訳がびそうと、私のの苦痛は消えはしないのだから。
やがて、廊をる慌ただしい音とともに、母が庭へ戻ってきた。
その両には、の保管で縁が擦り切れ、茶に変した分い茶封筒がしっかりと握られていた。
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母は私のにみると、震える両でその封筒を私の胸元へと差しした。
「千、これを見ておくれ。お父さんが何をしていたのか、全部ここに残されているから」
「……何よ、これ。今さら何を見せられたって——」
「いいから、けてごらん!」
普段決して声を荒らげることのない母のい調に気圧され、私は警戒しながら封筒を受け取った。
封筒はずっしりとく、の隙から埃とインクの匂いが微かに漂ってきた。封をけ、にを差し入れる。指先が触れたのは、プラスチックのい触だった。
引きずりしたのは、冊のの預通帳だった。
表の濃紺の帯の、座名義の欄に、黒いインクで几帳面な楷が記されていた。
『藤崎 千』
私の旧姓。私の名で作られた、見覚えのない普通預座の通帳だった。
「……私の、通帳……?」
私は訝しみながら、親指で通帳の表をめくった。
最初のページ、最段に械で印字された付と額の数字が目にび込んできた瞬、私の呼吸がピタリと止まった。
『19881226 オアズカリキン 500,000』
臓がねがった。
万円。
あの、実の暗い居の座卓ので、の台に乗せられていたあの封筒の。私をのへと売り渡した、佐々からの結納の額と、円の狂いもなく完全に致していた。
「な……これ、どういうこと……?」
私は震えるで通帳を握りしめ、母と父の顔を交互に見つめた。
「の借の返済に使ったんじゃないの……? 根の修繕費や、お父さんの仕事の穴埋めに消えたんじゃなかったの……!?」
父は答えず、ただ目を伏せていた。
代わりに、母が涙を拭いながら、静かに、しかしはっきりとした声で告げた。
「お父さんはね……あの結納に、銭もをつけていないんだよ。あの、佐々の方々が帰られた、そのですぐに信用庫へって、おの名でこの座を作って、そのまま全額預け入れたんだ」