"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第5話
黄い格通と族の決断
「お義母さん……何を言っているんですか?」
私ののは完全にパニックに陥っていた。
「そんなの、できるわけがありません! 私は農の嫁なんですよ!? 毎の朝ご飯も、掃除も、畑仕事も、これから田植えだって始まるのに……! 世体が悪すぎます! 所のたちに『佐々の嫁は学に通っている』なんてられたら、お義父さんも博さんも、で笑い者になってしまいます!」
必に常識を盾にして拒絶しようとする私を、ふみ子さんは静かな、しかし無を言わせぬい差しで見つめ返した。
「誰が笑うって言うんだい。勉することは、そんなに恥ずかしいことかい?」
ふみ子さんはちがると、「ちょっと待っておいき」と言い残して自へと戻っていった。
数分、戻ってきたふみ子さんのには、油に包まれたさな桐の箱が握られていた。
ふみ子さんは私の向かいに座り直すと、震えるで箱の蓋をけた。から取りされたのは、つ折りに畳まれ、経劣化ですっかり濃い飴に変した、枚の古いだった。
「これを見てごらん」
差しされたを、私は恐る恐る広げた。
縦きの印刷文字、昭代半の付。そして、ふみ子さんの旧姓の横に、朱の角印とともに記された、鮮な活字。
『形学教育学部 格通』
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「お義母さん……これ……」
「私もね」ふみ子さんはい目をして、黄いの端をおしそうに撫でた。「昔、学の先になりたかったんだよ。本が好きでね、夜にランプの灯りを布団のに持ち込んで、親に隠れて勉したもんさ。そして、奇跡みたいにこの格通をもらった」
「格……していたんですか……!?」
「ああ。嬉しくてね、泣きながら親に見せたよ。でも……親父に顔を引っぱたかれた。『百姓の女が学なんぞにって、誰が田んぼを耕すんだ! 親孝者めが!』ってね。通は破られそうになって、私が必で奪い返して、それっきりさ。その翌、健造さんのところへ嫁に来た」
ふみ子さんの瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。以の悔しさと無が、今もなお、その胸の奥で鮮なを帯びてき続けていたのだ。
「千さんが段ボール箱の底に参考を隠しているのを見た、胸が張り裂けそうだったよ。ああ、この子はの私だってね。……千さん、私はね、自分が親にされた理尽を、次の世代のお嫁さんに引き継ぐような真似だけは、絶対にんでもしたくないんだ」
ふみ子さんは私のたいを両で包み込み、力を込めた。
「女だからしろ、嫁だからを捨てろなんていうしい連鎖は、私の代で終わりにする。あんたは私の分まで、自分のきたいを歩きなさい。
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このが鎖になるなら、私たちがその鎖をしてやるから」
その夜、夕の膳が片付いた、居で緊急の族会議がかれた。
ふみ子さんが事の経緯を切りした瞬、健造さんも博も箸を止め、い沈黙がりた。
私は針のむしろに座らされたいで、さく縮こまっていた。いくら義母が理解を示してくれたとしても、である義父や、夫である博が許すはずがない。男たちにとって、嫁が学するなど都以の何物でもないはずだ。
しかし、健造さんがいをいて発した第声は、私の予を完全に砕した。
「……通えるのか?」
「え……?」
「ここから番い国の分でも、最寄りの駅まで自転で分、そこから奥羽本線とバスを乗り継いで、片はかかるぞ。特にはでダイヤが乱れる。体力が持つのかって聞いているんだ」
義父の目は、りではなく、純粋な通学の現実性への懸で満ちていた。
続いて、博が腕を組みながら言った。
「学の講義ってのは、毎朝から晩まであるわけじゃねえんだろ? 講義のをやりくりすりゃ、の伝いもしはできるはずだ。がひどい朝は、俺が軽トラで駅まで送迎してやる。……千、おが本気なら、俺は反対しねえぞ」
「で、でも……学費は……! それに、所のたちになんて言われるか……」
私が震える声で呟くと、健造さんが煙管のを皿にトントンと落としながら、静かにした。
「所の連が飯をわせてくれるわけじゃねえ! 佐々の嫁が何をしようと、俺たちが決めたことに誰にも文句は言わせん。学費の保証なら、俺がいくらでも判子を押してやる。千さん、おが本気で先になりたいなら、このを気にして諦めるなんてみっともねえ真似はするな!」
居の裸球の灯りが、族の温かい顔を照らしていた。
血の繋がりなどない。会ってまだ数ヶしか経っていない。それなのに、このたちは私の魂を、私のを、当たりのように肯定し、守ろうとしてくれている。
実の父親が万円の値札をつけて叩き売った私のを、このたちは無償ので抱きげ、再びらせようとしてくれている。
「ありがとうございます……! 私……懸命、頑張ります……!」
私は畳に突っ伏し、声をげて号泣した。
の孤独と絶望が、の温かい族の懐ので、激しい涙となって溶けしていった。