みかん小説
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"朝八時までのヒーロー弁当" 第7話

卵焼きの理由

翔太が最初の注文表を持ってを訪れたのは、曜の夕方だった。学ノートから切り取ったには、の名と「普通」「盛り」「ご飯なめ」の文字が並んでいる。正夫は老鏡をかけ、表をずつ読んだ。「これなら数が分かる」。しず子は台所の壁にを留め、仕込みの鍋を指で数えた。の仕事が、初めて誰かとつながった気がした。

「ところで親父さん」。翔太は帰り際、ずっと気になっていたことを尋ねた。「俺、入社して初めて来たから卵焼きがかったですよね。どうしてですか。名も言ってなかったのに」。正夫は洗っていた鍋を置き、翔太の顔を見た。「お、川の息子だろ。目元がそっくりだ」。翔太は驚いて言葉を失った。正夫は「親父さんも卵焼きが好きだった」と続けた。

翔太の父、川修はこので働いた。翔太が学のころ、夜勤けの父はよくヒーロー弁当をげて帰ってきた。父は居のテーブルに座ると、蓋をけ、卵焼きを切れ皿に移してくれた。甘くない、だしのきいた卵焼きだった。眠いはずなのに「学、遅れるぞ」と笑っていた父の顔を、翔太は今でも覚えている。

父は数、病気でを退職した。今はでゆっくり暮らしているが、以ほどくへ歩かなくなった。翔太が同じに入ると告げたとき、父は「楽な仕事じゃないぞ」

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と言いながら、しだけ嬉しそうだった。の卵焼きをべると父の夜勤けの姿をいす。その理由が、いま目のの正夫の言葉でつながった。

「父さん、今も元気です。最は畑をやってます」。翔太が言うと、正夫は「そうか」とく答えた。「あのは夜勤の朝でも、飯を残したことがなかった。卵焼きだけは、おに持って帰ると言ってたな」。翔太はわず笑った。「だから俺の分までかったんですね」。正夫は頷き、また鍋を洗い始めた。特別な話をしたつもりはないようだった。

そのやり取りを聞いていたしず子は、が帰った、古い注文帳を取りした。何もの帳面に「川修 卵切れ」とかれた頁があった。正夫はそれを見て「まだ取ってあったのか」と驚いた。しず子は「捨てられないよ。お客さんの顔をいすから」と答えた。帳面にはもうを辞めたや、くなったの名も残っていた。

「でもね、あんた」。しず子は帳面を閉じて夫に向き直った。「昔のやり方を全部守ろうとすると、私たちが先に倒れるよ」。正夫は返事をしなかった。しず子は続けた。「続けるなら、つだけ約束して。作るのは注文された分と、おまけのさな包みつだけ。それから、い荷物はもうあんたが運ばない」。正夫は膝を見ろし、しばらく考えてから頷いた。

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翌、翔太は注文表をしく作り直した。名、個数、量の希望、受け取り担当の欄を設け、注文はの終業までに締め切る。変更があればへ話をかける。代は注文したから集め、弁当と引き換えに払う。会社の正式な取引ではなく、社員同士の取りまとめだと分かるよう、のには「個注文」といた。

最初の週、注文は個、個、個と増えた。余りはほとんどなくなり、正夫は朝から無理に仕込む必がなくなった。昼休みになると翔太と同期のが台を押し、ので弁当を受け取る。正夫がを伸ばしかけると、翔太は「膝の約束、忘れてませんよね」と笑った。正夫は満そうにを鳴らしたが、台からをした。

その週末、翔太は父に話をかけた。「ヒーロー弁当の親父さん、父さんのこと覚えてたよ」。受話器の向こうで父はしばらく黙り、「そうか。まだをやってくれてるんだな」と答えた。翔太はその声を聞いて、を続けてほしいとう理由が、だけではないことに気づいた。だが、続けてほしいと言うだけなら簡単だ。自分たちも続けられる形を作らなければならなかった。

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