"忘れたコートが教えてくれたこと" 第5話
いちばん言いやすい
会社には、郊のがあった。
古い倉庫もあった。
設備更のために確保していた積も、すべて使い切っていたわけではない。
そして何より、幸子さんが暮らしている実も、会社とは別の個資産だった。
「どうして、これを先に理しなかったんですか」
私は資料を見ながら尋ねた。
直子さんは苦しそうに目を伏せた。
「母が嫌がったんです」
「倉庫を?」
「はい。父が最初に建てた建物だからって。郊のも、父と緒に買ったものだから放したくないって」
「博は?」
「兄も、会社を自分の代でさくしたくなかったんだといます」
静かな喫茶ので、その言葉だけがやけにきく聞こえた。
会社をさくしたくない。
いの倉庫を売りたくない。
父親と買ったを放したくない。
広いも守りたい。
でもから追加の担保は求められている。
そこで彼らが選んだのが、
まだ族になっていない私だった。
「どうして私だったんでしょうね」
自分でも驚くほど静かな声がた。
直子さんはい答えなかった。
やがて、目に涙をためながら言った。
「……番、言いやすいだったからだといます」
その言葉は、鳴られるより痛かった。
私なら最には折れる。
私なら族のためと言われれば断れない。
私なら、結婚したなら逃げない。
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そうわれていたのだ。
「ごめんなさい」
直子さんがをげた。
「本当に、ごめんなさい」
「直子さんが謝る必はありません」
私は黒いファイルを閉じた。
「ただ、必なページのコピーをもらえますか」
直子さんはし迷ったあと、頷いた。
喫茶をた私たちは、くのコンビニで父親の方針がかれた部分だけをコピーした。
が械から枚ずつ吐きされてくる。
その数枚は、私が決断を変えないための証拠というより、
自分が何をされたのかを正しく理解するために必だった。
翌、博からいメッセージが来た。
《実害はていない》
《マンションに何も設定していない》
《最終にはゆいの同が必だった》
《を枚で捨てるのか》
私は最まで読んだ。
でも、返信はしなかった。
その夜、私はずっと隠していたつの座をいた。
残は、〇万円ほど。
半、博が「会社がし苦しい」とこぼしたから、私は自分の料のからしずつ貯めていた。
もし本当に困ったが来たら。
医療費かもしれない。
引っ越し代かもしれない。
弁護士や税理士へ相談するためのおかもしれない。
理由をきちんと聞き、納得できることなら、
自分ので助けたい。
そうっていた。
私は最初から、彼らを見捨てるつもりなどなかった。
ただ、
助けるかどうかは私が決めたかった。
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翌週、恵美にその話をすると、彼女はし考えてから尋ねた。
「もし最初から博に、マンションを担保にしてほしいって正面から頼まれてたら、どうしてた?」
私はすぐには答えられなかった。
「分からない」
それが本当の答えだった。
「〇万円くらいなら、理由を聞いて貸すことを考えたかもしれない。幸子さんがきなを売ってさなところに引っ越すなら、引っ越しを伝ったかもしれない」
「マンションは?」
「たぶん断った。危険がきすぎるから」
私はそこで言葉を切った。
「でも、いきなり全部拒絶したとはわない。緒にどうすればいいか、ちゃんと話したとう」
恵美は静かに頷いた。
「じゃあ、おの問題じゃないね」
「うん」
私は初めて、自分のりを正確な言葉にできた。
私が許せなかったのは千万円い資産を狙われたことだけではない。
私が「嫌だ」と言うを、
彼らが勝にろへずらそうとしたことだった。
その週末。
幸子さんから、通のメッセージが届いた。
《もうマンションの話はしません》
《倉庫もも売ることを考えます》
《だからお願いです》
《結婚式だけは、予定通りにできませんか》
そして私は、その初めて気づいた。
幸子さんが本当に守りたいものは、
会社だけではなかった。