"忘れたコートが教えてくれたこと" 第3話
まだ何もしていない
翌朝、目を覚ますと、博から件以の着信が残っていた。
《話したい》
《誤解だ》
《まだ何もしていない》
《をこんなことで終わらせるのか》
画面を見ているだけで、胸の奥がたくなった。
誤解ではない。
まだ何もしていないのでもない。
するに、私が偶然見つけただけだ。
私は博へ返信する代わりに、まず式へ話をかけた。
「ゆいと申します。笠原博との結婚式についてですが、止の続きをお願いします」
担当者は驚いたが、事を尋ねることなく事務に説してくれた。週なので解約料が発すること、装や装には別途費用がかかること、類を確認する必があること。
私はすべて承した。
話を切ったあと、実の母にも連絡した。
「お母さん。結婚、やめることにした」
話の向こうがしばらく静かになった。
「理由、聞いてもいい?」
「話では話せない。でも、私が決めたの」
母はそれ以聞かなかった。
「分かった。いつでも帰ってきなさい」
その声を聞いた瞬だけ、涙がそうになった。
昼過ぎ、博からまたメッセージが届いた。
《本当に何もしてないんだ。登記も変えてないし、マンションに実害はていない》
私は度だけ返信した。
《何もしていないのではなく、するに見つけただけです》
送信してから、彼の通をミュートにした。
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しかし、つだけが残っていた。
彼らが言う通り、本当に何も法な続きをしていないのか。
曜の昼休み、私は学代からの友、松田恵美と会った。恵美は産会社の事務部で働いており、登記や契約に詳しい。
私は曜に起きたことを、最初から最まで話した。
「ちょっと待って」
話を聞き終えた恵美は、りで眉を寄せた。
「結婚に説っていてあったの?」
「うん」
「それ、もう答えてるじゃん。ゆいが事に拒否できないようにするためでしょう」
「でも博は、実害がないって」
「実害がるに止めたのは、ゆいでしょ」
私は何も言えなかった。
自分でもそうっていたはずなのに、博から何度も「げさだ」「何も起きていない」と言われるうちに、しずつ自信が揺らいでいたのだ。
恵美は続けた。
「まず、登記を確認しよう。所権も担保設定も変わっていないか。それだけ確認してから、次を考えればいい」
そのの夕方、彼女から連絡が来た。
「ゆい、丈夫。所者は今もゆいのまま。抵当権もしく設定されていない」
私はようやく息を吐いた。
法な変更は、まだ何も起きていなかった。
それでも恵美は言った。
「はしていい。でも、許す理由にはしないで」
「うん」
「週遅かったら、結婚してから同じ話をされてたんだよ」
その言葉で、もう度現実に引き戻された。
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私は被害に遭わなかったのではない。
被害になるに、自分で抜けしただけなのだ。
その夜、らない番号から話がかかってきた。
るか迷ったが、私は通話ボタンを押した。
「もしもし、ゆいさんですか」
女性の声だった。
「笠原直子です」
博の妹だった。
直子さんは、実の会社で経理を担当している。
「兄から、結婚がなくなったと聞きました」
「はい」
「ゆいさんのマンションを、会社の担保候補にしていたというのは……本当ですか」
私は瞬言葉を失った。
「計画には、そういてありました」
話の向こうで、直子さんが息を呑んだ。
「私、らなかったんです」
経理担当者である彼女がらない。
その事実は、私が見つけた計画よりも気だった。
「お願いがあります」
直子さんの声がくなった。
「だけ、をください。会社の古い記録を全部確認したいんです」