"忘れたコートが教えてくれたこと" 第2話
「ってた」
「ゆい……」
博は、そのにち尽くした。
幸子さんは瞬遅れて卓へ駆け寄り、広がった類をで隠そうとした。
「違うのよ、ゆいさん。これはまだ――」
「何が違うんですか」
私は番の計画を持ちげた。
私の名。
マンションの所。
追加担保候補。
そこには、見違える余などなかった。
「まだ何もしてないの。本当に。候補として考えていただけで……」
「じゃあ、何をする予定だったんですか?」
幸子さんは答えなかった。
私は今度は博を見た。
「どうして結婚してから週に説なの?」
「それは……会社のことだから、し落ち着いてから話したほうがいいとって」
「どうして結婚するじゃないの?」
彼は線をそらした。
「ゆいがになるだろ」
「になったらいけないの?」
「そういうじゃなくて……」
幸子さんが割って入った。
「ゆいさん、会社が本当に変なの。も従業員がいるのよ。からも追加の担保を求められていて、今のままだと資繰りが――」
「だから、私のマンションなんですか?」
「能性のつとしてよ」
「私に聞くに?」
その問いで、とも黙った。
私は類をもう度見た。
候補と呼ぶには、あまりにも具体だった。所も評価額の概算も、賃収入まで記載されている。
「私のマンション以に、会社やの資産はないんですか?」
幸子さんの表がわずかに張った。
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博が答えた。
「古い倉庫と、郊にがしある」
「このは?」
今度こそ、誰もすぐには答えなかった。
幸子さんが苦しそうな顔をした。
「ここは……売る必まではないとっているの。お父さんとのいが詰まっただし」
「古い倉庫は?」
「あれも、お父さんが会社を始めた頃に初めて建てた建物なのよ」
私はわず笑いそうになった。
もちろん、面かったわけではない。
「私のマンションも、祖母が残したものです」
幸子さんの顔が固まった。
「違いは何ですか?」
答えはなかった。
自分たちの父親や夫が残したや建物は、いだから守りたい。
私の祖母が残した資産なら、会社を守るために危険へ差ししてもいい。
彼らにとって、族になるとはそういうことだったのだろうか。
私は博を見た。
「あなた、ってた?」
彼は息を止めた。
「ねえ。いつからってたの?」
い沈黙が続いた。
やがて彼は、かすれた声で答えた。
「……ってた」
胸の奥で、何かが完全に切れた。
「いつから?」
「、かくらい」
、か。
私はその言葉を聞いて、別の来事をいした。
ちょうどその頃、博は突然「婚姻届だけ先にさないか」と言いしたことがある。
理由を尋ねると、
「式のに事務なことを終わらせたほうが楽だから」
と笑っていた。
私は「式のでいいでしょう」と断った。
彼はし満そうだったが、それ以は言わなかった。
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今になれば、その提案のが違って見える。
「婚姻届を先にそうって言ったのも、これが理由?」
「違う」
博は即座に否定した。
しかし、その目は私を見なかった。
「全部がそのためじゃない。でも、結婚したならちゃんと話せるとった」
「何を?」
「会社の事を説して、協力してもらえないかって」
「私が嫌って言ったら?」
博のが止まった。
私は歩づいた。
「だから、先に言わなかったんでしょう」
「違うって」
「私が嫌って言うかもしれないから。結婚そのものを考え直すかもしれないから。だから式が終わるまで黙っていた」
「そういう言い方をするなよ」
「じゃあ違うって言って」
彼は何も言えなかった。
幸子さんが泣きそうな声で言った。
「ゆいさん、私たちはあなたのものを奪いたかったわけじゃないの。会社を守りたかっただけなのよ」
私はを見た。
薬指には、博とで選んだ婚約指輪があった。
試着した、彼は笑っていた。
「ゆいに似う」
あのの声まで覚えている。
私は指輪をした。
博が顔をげた。
「ゆい、待って」
私はそのまま卓へ歩き、私の名が印刷された資計画の横に指輪を置いた。
さな属音がした。
「結婚式、止にします」
幸子さんが声をげた。
「何を言ってるの!」
「俺たちはまだ何もしてないだろ!」
博までちがった。
私は彼を見た。
「しましたよ」
「何をだよ」
「私がらないところで、私がいつ断る権利を持てるかまで決めた」
それ以、説する必はなかった。
私は子に掛かっていたコートを取った。
幸子さんが追いすがる。
「の従業員がいるのよ!」
私は玄関で度だけ振り返った。
「だったら、まずお父さんが残したものから守ってください」
その夜、私は婚約者のをた。
コートのポケットので握ったは震えていた。
けれど、振り返ることはなかった。