"朝霧湯、最後の暖簾" 第5話
届かなかった百リットル
の朝、正は久保田燃料の倉庫へった。
契約では週に届けられるはずだった灯油の部が、まだ入っていない。帳面を調べてもらおうとしたのだ。倉庫のには、油缶を抱えたが並び、さなトラックがひっきりなしに入りしていた。
社の久保田は、正を見るとすぐに事務所へ入れた。
「島田さん、何度も申し訳ありません」
「謝るより、次に届くを教えてくれ」
「確約できません。入荷が減っています」
正は伝票を広げた。
「今週分、百リットルといてある。半分でもいいんだ」
久保田は、類をしばらく見つめていた。
「実は、朝湯へ回す予定だった百リットルを、別のところへ回しました」
正はを乗りした。
「どこだ。誰が決めた」
「町れの療養施設です。用の灯油がりなくて、急に頼まれました」
「うちは契約してるんだぞ」
「施設にも入居者がいます。皆さん、寒いで寝ていらっしゃる」
正はを閉じた。
久保田は続けた。
「あなたに黙っていたのは違いでした。勝に配分を変えた責任は、こちらにあります。ただ、あの晩はそうするしかないとったんです」
事務所の窓越しに、員が缶を運んでいた。正の腹の底にはりがあった。届けてもらえるとって営業予定を組んでいた。支払いも用していた。
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それなのに、誰かの判断つでが休まなければならない。
「施設の分を返せとは言わん」
ようやく正は言った。
「だが、次はちゃんとらせてくれ。客に休みを伝えるもる」
久保田はくをげた。
帰り、正は療養施設のを通った。窓に結がつき、廊を歩くが見えた。そこにも寒さから守らなければならないがいる。朝湯に通う老と、何が違うのだろう。
夜、正が事を話すと、澄子はすぐにはらなかった。
「そうだったの」
「らないのか」
「腹はつわよ。話本くれれば、みんなにくらせられたもの。でも、そこにいるを寒くしてまで返してほしいとは言えない」
「俺だって言わなかった」
正はつっけんどんに答えた。
千絵は、卓で黙って聞いていた。
「療養施設なら、お呂はあるのかな」
「何だ、急に」
「護学の見学で聞いたの。体の具が悪いは、温度や体調を見ながら入浴するって。灯油がりないと、もお呂も困るよね」
正は、うなずくしかなかった。
そのとき、から宮田の声がした。
「島田さん、いるか」
朝湯の主が寒そうにっていた。には折りたたんだ聞がある。
「、うちも休む。油の配送が減った」
正は驚いた。
「おのところもか」
「の向こうだけ別の国にあるわけじゃないからな」
宮田は、いつもの皮肉っぽい笑顔を消した。
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「そこで相談だ。うちがけるは朝湯の客も来てもらう。おのところがくは、こっちの客も回す。どっちか軒が毎沸かすより、休みをずらすほうがまだ能性がある」
「うちの油が来なければ、けるそのものがない」
「それなら役も入れて、燃料に配達の見通しを聞こう。勝な買い占めはしない。必な量を正直にす」
正は考えた。を閉めないための協力ではない。閉めざるを得ないにも、客を見捨てないための協力だ。
「の悪いの移は、どうする」
「瀬さんに相談している。町のがせるか確認だ」
澄子が台所から顔をした。
「私も伝う。んでいるところと、来られるをきすわ」
正は、すぐに賛成できなかった。競争相と営業を話しい、客を譲りうなんて、自分の父の代には考えられなかったことだ。
それでも、宮田が玄関の段差をりかけたとき、正は呼び止めた。
「。、俺も役へく」
宮田は振り返り、くうなずいた。
その夜遅く、久保田から話が入った。正は急いで受話器を取った。
「島田さん、内の定期便は見通しがちません。臨の入荷があっても、いつ、どれだけかは分からない」
正は声を失った。
「もも、約束できないんです」
「そうか」
正はそれだけ言って話を切った。
台所では、澄子が正用の根を切っていた。包丁の音が止む。
「どうだった?」
「内は、もう来ないかもしれん」
正は釜へり、蓋の閉まったタンクにを置いた。たい鉄の触がした。
ここに残った灯油だけで、朝湯の越しを決めなくてはならない。
彼は初めて、自分たちのを守ることと、を最まで営業することが同じではないのかもしれないとった。