"75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密" 第3話
「奈の兄です」
仕事が休みだった朝、見らぬ番号から話がかかってきた。
普段ならない。
だが弁護士から、
「神崎から接触があるかもしれません」
そう言われていたため、私は画面を数秒見つめてから通話ボタンを押した。
「もしもし」
「田牧さんのお話でしょうか」
く、よく通る男の声だった。
「はい」
「突然失礼します。神崎悟と申します」
神崎。
その名字だけで体が固くなった。
「奈の兄です」
息が止まりそうになった。
母の兄。
私にとっては叔父にあたるだった。
「母の兄なら」
私は話を握るに力を入れた。
「どうして今まで度も連絡をくれなかったんですか」
自分でも驚くほど声が震えていた。
「母が病気だったも、くなったも、直子おばちゃんがくなったも、神崎から誰も来ませんでした」
悟はし黙った。
「簡単ではなかったんだ。族には々ある」
「気にかけていた、と言うつもりですか」
「奈のことは気にしていた」
その言葉に、腹の底から違が湧いた。
気にしていたなら、なぜ母はあれほど働かなければならなかったのか。
学の授業料を払うため、母が夜の清掃までしていたことを、このはっていたのか。
病院代を気にして、検査を度延期したことまでっていたのか。
「信託の話は聞いたか」
悟は私の沈黙を待たず、本題へ入った。
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「しだけ」
「億という数字も?」
「はい」
「驚いただろう。ただ、全部が現じゃない。会社の株がきい。非株式だから自由に売れるわけでもないし、会社には借入れもある」
その説は、弁護士から聞いた内容と致していた。
だからこそ、私はし警戒を緩めそうになった。
「度、直接会って話したい」
「何の話ですか」
「株のことだ。それから奈のことも」
断りたかった。
けれど逃げても、母の過は消えない。
直子おばちゃんが何を守っていたのかも、億円のも分からないままだ。
「分かりました」
指定された所は、都の級ホテルだった。
翌、私はクローゼットの奥から数に買った無のスーツを取りした。
普段のは、ミシンので作業しやすいものばかりだ。
鏡のでスーツを着てみると、それさえホテルの空気には似わない気がした。
かける直、私は万円の事業計画を鞄に入れた。
億円の話を聞きにくのに、万円の融資計画を持っていく。
自分でもおかしいとった。
だが、それを持っていなければ、神崎というきな名にみ込まれ、自分が誰だったか分からなくなりそうだった。
私は田牧。
、直しをしてきてきた。
来閉まるさなを引き継ぎたい。
必なのは万円。
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それが私の現実だった。
ホテルのエントランスには磨かれたが広がり、きなが飾られていた。
エレベーターで階へ向かう、私は鞄のの事業計画をから握った。
会議の扉をけると、いテーブルの奥にの男性が座っていた。
は類を持った若い男性。
もうが神崎悟だった。
代半ばほど。
質なスーツを着て、背筋を伸ばしている。
顔ちには母に似たところがあった。
しかし目のたさは、まったく違った。
私を見るなり、悟は言った。
「奈に似ているな」
懐かしむような声ではなかった。
品定めするような響きだった。
私は向かい側の席に座った。
「母のことをっているなら、先に聞きたいことがあります」
「何だ」
「なぜ今まで何もしてくれなかったんですか」
悟は眉を寄せた。
「今は昔話をするために呼んだわけじゃない」
隣の男が枚の類を私のに置いた。
「信託ので番きいのは、うちの会社の株だ」
悟はそのを指先で軽く叩いた。
「牧さん。会社をやりたいか」
「やりたくありません」
私は即答した。
「そうだろうな。奈もそうだった」
胸がざらついた。
「なら話はい。株を会社側で買い取ることができる」
私は類に目を落とした。
そこにかれていた数字を見て、瞬、呼吸を忘れた。
億円。
「これだけあれば、困らない」
悟は穏やかな声で言った。
「会社にも迷惑がかからない。牧さんも責任を背負わずに済む。お互いに番楽な方法だ」
その朝まで私は、万円の融資さえ受けられずにいた。
そんな私の目のに、億円。
あまりにもきすぎて、断る理由を考えることすら難しかった。
そして悟は、私のに本ののペンを置いた。