"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第10話
島で迎えた夜
島の診療所の医師が来たのは、通報からほどだった。私は港の管理で診察を受け、血圧や体温、の皮膚の状態を確認してもらった。り坂で輪を抑え続けたのひらには赤い擦り傷ができていたが、転倒はしていなかった。医師は「きな傷は見当たりません。ただ、脊髄のけががあるなら無理な移は避けてください」と言い、必な処置をしてくれた。
「今は最終便がています。今夜は診療所で休んで、の朝ので戻るのが全でしょう」。島田さんの提案に、私は頷いた。保部や警察にも状況は共されていたが、緊急搬送が必な状態ではない。無理に夜のを渡るより、かい所で体を休めるほうがよかった。診療所の階には簡易ベッドがあり、護師が泊まりの対応をしてくれるという。
島田さんは港の記録を確認していた。の航、啓介が管理に寄り「妻は宿で休んでいる」と話した刻が残っている。乗の川さんも、往は夫婦だったのに復は夫だったことを覚えていた。私は夫が最初から分の切符を予約していた写真を見せた。島田さんはそれを見て、く息を吐いた。
「ここのを子ででりるなんて、普通は考えられません。がっていたら、もっと危なかった」
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。島田さんはを抑えた声で言った。「助かったからしたことがなかった、という話ではないですよ」。私はその言葉を聞いて、湯みを握るに力が入った。自分で何とかできたことが、夫のしたことを軽くする理由にはならない。
診療所へ移る、島田さんの話を借りて姉へ連絡した。子は受話器の向こうで、私の声を聞くなり泣きした。「朝、へったら誰もいなかったの。話もつながらなくて、警察に相談してた」。私は旅のに送った切符の写真が役にったとった。姉は会社へも問いわせ、私たちが島へ渡ったことを確認していた。
「私、今は全な所にいる。の朝ので帰るから」
「分かった。港で待ってる。もう啓介さんのところへは戻らなくていい」
私は返事をしようとして、言葉が詰まった。あのへ帰らなくていい。その言を、誰かに言ってほしかったのかもしれない。夫の嫌をうかがいながら暮らす々が当たりになり、別の活を考える力さえくなっていた。姉が「あなたの荷物は私が取りにく」と言ったとき、私は初めてして泣いた。
夜、診療所のベッドで横になっていると、護師が温かいスープを運んでくれた。私は昼から何もべていなかった。湯気のつ器を見つめ、ゆっくりとに運ぶ。
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普通の夕がこんなにありがたいとじるのは、事故の直以来だった。窓のでは波の音が聞こえ、港の灯りがくに滲んでいる。
姉からメッセージの内容が伝えられた。啓介は夕方、子に「千紗は島の宿でになりたいと言っている。迎えにく必はない」と送っていたという。さらに「俺がどれだけ世話をしてきたか、本に考えさせたい」ともいていた。私はその文を記録してもらうよう頼んだ。夫は私が孤していると分かったうえで、の助けをざけようとしていた。
眠る、川さんから姉を通じてい伝言が届いた。「てたことはきな。でも今夜は、体を休めることが番事です」。私は枕元の装具を見た。夫は私がった姿に驚いただろう。しかし、私が本当に取り戻したものは秒の位だけではない。自分の危険を自分で判断し、助けを求めるという選択だった。
翌朝、診療所の窓から着きを眺めていると、島田さんが枚のを持って来た。「昨の記録をまとめました。警察へ渡すに、あなたにも確認してもらいたくて」。そこには夫が会社に伝えた嘘が、刻とともにかれていた。私は読みめ、最ので目を止めた。啓介は乗、島田さんにこう尋ねていたという。
「この島の港は、夜になったら誰もいなくなりますよね」