"昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録" 第6話
借にされた旅費
母に保証の写しを見せると、顔が真っになった。
「このを見たことがある?」
母は指を震わせながら、印鑑の箇所を指した。「ある。丹羽さんが、正男が京に着いた翌持ってきた」。
それは兄を送りした翌朝のことだった。丹羽は茶のに座り、兄の寮活に必な費用をて替えたと説した。「普通は会社がすが、今回は続きの都で保護者の保証が必だ」。母はを押した。「うちには払えるがありません」。丹羽は笑って、「正男君が働いて返すから配ない」と言った。
「何もいていない欄があったでしょう」
「『あとで会社の判を押す』と言われたんだよ」
「どうして、そのまま名をいたの」
母は答えるまでにがかかった。「断ったら、正男の仕事がなくなるとった。まだ京へ着いたばかりだったから」。
私は母のに、平田さんの診療記録を置いた。「正男は目に逃げたんじゃない。怪をした友達を助けようとしていたの」。母はを読み、唇にを当てた。私は、どこにもけなかったの話、目に起きた事故、兄が定所へ連絡したことを説した。
「……あの子、そこまで」
「兄ちゃんは母ちゃんに説した。でも母ちゃんは聞かなかった」
母はくをげた。「分かってる。全部、私が悪かったんだ」。
私はすぐに慰めなかった。
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母がきていくために焦った事は分かる。しかし、兄に向けた言葉も、を燃やした為も、消えるわけではない。
「本当に度も、兄ちゃんを訪ねなかったの?」
母は首を振った。「度、材のまでった。最初は正男が働き始めたの暮れ。度目は、お父さんの法事のとき」。
「会わなかった?」
「入で姿を見たら、声をかけられなかった。謝れば、全部話さなくちゃいけないとって」。
兄だけが逃げたのではなかった。に残った母も、、あの朝から逃げ続けたのだ。
私と千は、保証の数字を調べることにした。千百円は最初の『預り』。さらににつき旅費、寝具代、制代という名目で追加費用がき込まれていた。さんの記憶では、会社から直接説を受けたことは度もない。初の賃細も交付されず、何をいくら返しているのか分からなかったという。
丹羽源はすでにくなっていた。その代わり、息子の弘が町で運送会社を経営し、商会の役員も務めていた。私は正式に面会を申し込み、当の類の確認を頼んだ。弘は歳になっていたが、写真で見た青の面は残っていた。
「父のした仕事のことなら、もう資料はないんですよ」
「昭、あなたは京でたちを迎えましたね」
「あの頃は親父の伝いです。
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き先が変わった子がいたのはっていますが、会社側の都でしょう」
私は種類の就職案内を示した。「学に同じ付で違う内容を送っています。保護者へはとに分かれることをらせていません」。
弘は類をちらりと見た。「雇用先は紹介に変わることもあります」。
「それなら、親に説し直すべきでした。費用を空のまま保証させるのもおかしい」
弘はを乗りした。「私に何を認めろと言うんです。ですよ」
「当何が起きたのか、確かめたいだけです」
「あなたのお兄さんは、自分で働くのをやめて帰った。そういう記録があるんです」
私は静に尋ねた。「その記録を見せていただけますか」。
弘は答えなかった。代わりに、机の話を取った。「失礼。仕事がありますから」。面会はそこで終わった。
翌、町役の展示担当者が私を呼んだ。「ノ瀬駅の展示から、集団就職の部分をしてほしい」。理由を聞くと、元の関係者から、昔の就職斡旋を悪くくのではないかと配する話があったという。私はまだ説文の案もしていなかった。「写真そのものは歴史資料です」と言うと、担当者は目を伏せた。
そのの夕方、勤め先の図にも無言話が続いた。
司は事を聞くと、「図の話で個な調査をめないでほしい」
と言った。私はをげた。確かに、勤務先に迷惑をかけていい理由はない。翌から私は休みと自宅の話を使い、調査の費用も帳面に記録した。勤務が終わった夕方、コピーを取り、相へをく。千は々、封筒の宛名きを伝ってくれた。
「お姉ちゃんは、途でやめたくならないの?」
「なるよ。に帰って、夕飯を作るだけのに戻りたいとうこともある」
「でも、やめないんだね」
私は暫く考えた。「兄ちゃんは歳で、らない町に話をかけた。私はもう歳で、調べられる所ももっている。だったら、確かめられるところまでは確かめたい」。千は静かに頷いた。「私もやるよ。兄ちゃんに会いたいからだけじゃない。自分が信じてきた話を、そのまま子どもに伝えたくないんだ」。
私たち姉妹が初めて同じ方向を向いた夜だった。私は司へ事を話し、調査に使った資料と仕事の資料を分けて管理するようにした。写しには入先と確認した付をき、個の健康報は本の同なく公しないと決めた。誰かの名誉を取り戻すために、別のの活を傷つけてはいけないとった。
夜、千が訪ねてきた。彼女は母の台所で、古い計簿を見つけたという。「昭のところを見て」。付の横に、母の字で『丹羽さんへ千円』とある。
もも、そののまで同じ記載があった。私たちは顔を見わせた。
「兄ちゃんの仕事がなくなったのに、母ちゃんは何のおを払っていたの?」
千の言葉に、私は何も答えられなかった。母が恐れていた借は、単なる脅しではなかった。兄の帰郷も、実際に請求されていたのだ。