みかん小説
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"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第11話

の荷

が終わろうとするころ、へ続くはで滑りやすくなった。川のには朝がり、自転で反物を運ぶには危ない。女たちのには、納期を守るため夜更けまでをかす者もいた。フキは毎朝、各の来がりを確認した。かつては自分が番く織ったことが自だったが、今は誰かが遅れそうならくらせてほしかった。

「園子さんの、子がをしたって」とミネが来た。

「昨までに何反」

「反と半分」

「残りの半分は、私の所にがある。横糸だけなら替えられる」

フキはすぐには頼まなかった。園子が自分で決めることだ。園子のへ向き、布を移すと賃をどう分けるか相談した。園子は布の端を見つめていたが、やがて頷いた。

「仕げを頼む。糸巻きとここまでの分は私につけて」

「もちろん」とフキ。

ヨシはその話を聞いて、昔なら仕事を横取りしたとっただろうとった。自分でできるだけ抱え、ほかへ渡すのを恥だと考えてきた。だが病気の子のそばに母がいられるなら、誰かが残りを織るのも派な働き方だった。

問への納品は当初の予定より延びた。沢は再びをげに向き、澄は来がりを先に確認しておいてもらうよう頼んだ。返事は厳しかったが、全量キャンセルではなく、来た分だけ受け取ることになった。

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「約束を守れないから値をげると言われました」と沢は女たちへ説した。

ミネがをいた。

「最初の反の約束を、反へ減らしてもらったでしょう。私たちが織れる数だけにした。それでもがって予定どおりにならなかったんです」

「を言い訳にするなとは言われたくない」と園子。

「でも相もをけて待っているんだよね」とキヌが言った。

言い争いはいつまでも続いた。ヨシは途でを挟まず、各の納期をいたに指を置いた。来がりが遅れたには事があり、その事をひとくくりにして許してほしいとは言えない。ならば、どの分をいつ届けるかを枚ずつ確かめるしかない。

の晩、鉄夫は何度もを見した。昼に通ったはが見えていたのに、夕方にはい氷が張っていた。町の若者が、輪へ巻く縄を貸すと言ったが、鉄夫はすぐには受けなかった。荷が遅れれば責められるのは自分で、途で濡らしても責められるのは自分だ。帰り、のたもとでヨシに会うと、鉄夫はわず「親父は昔から何でも俺に急げと言う」と漏らした。ヨシは返事を急がなかった。正吉もきていた頃、のを直してほしいと言われるたび仕事帰りに具を持ってった。頼めばやってくれる子ほど、できないとは言いにくい。

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ヨシは「急ぐことと、全部自分で運ぶことは違うよ」とだけ言った。鉄夫はをすすり、翌朝には包みを分ける準備をしようとった。

最の納品の朝、台の荷がへ来た。鉄夫は台を押し、沢がもう台を引く予定だったが、夜ので坂が凍っていた。荷を引けば布にがかかる。で運ぶにはが狭い。

「包みを分けよう」とヨシが言った。

「反い布をで?」と鉄夫。

「全部じゃない。まず今いる分だけ。残りはが通ってから」

澄は送り状を確かめた。荷できる分と、まだ検品の分を分けて印をつけた。誰かが急げと言っても、仕がっていない布に荷札をつけなかった。

ヨシはのに座らず、包装を切る仕事を伝った。歳のは指が痛み、い布を運べない。そのかわり、角を包むの折り方を信夫に見せるように、若い女たちへ話した。糸にが染みれば、仕がりが落ちる。包みの縁はにする。誰かが冗談を言った。

「ヨシさん、織るよりがくようになったね」

「ならまだ反織れるよ」

皆が笑った。最初のの以来、町の女たちがヨシのいる所で揃って笑ったのは、それが初めてだった。

午、ヨシは検品を待つ布の横でち尽くしていた。かつて自分が納めた反を受け取った、沢がどんな値で数えたか、今なら分かる。

枚の札をき直すだけでの収入が変わる。今はその札をく側にも、織った者の顔が見えている。澄が記入を違えると、ミネが数字を読み直した。「このは反じゃなくて、反と分のです」。以なら若い女が帳へをすことはなかった。澄はをげてき直した。仕事の分け方が変わったことを、ヨシはそのさな面でじた。特別な勝利のらせはなくても、から違う失敗の仕方をすることはできる。

夕方、問から連絡が入った。先に届いた分は品質を認められ、約束した額で買い取る。遅れた分には運賃の追加分を請求する。完全な勝利ではないが、最初の仕事が終わる目処がった。

沢はで倉庫の子に座っていた。ヨシが顔をすと、男は古い納品札を見せた。まで使っていた札だ。賃の欄には反百円とかれている。

「この額で受けられたら、楽なのに」

「誰が楽なんだい」

沢はし笑った。

「も、坂井さんたちも」

「問はどうだろうね」

「向こうは向こうで競争がある」

ヨシは頷いた。誰かの苦労を聞けば、全員が正しいことになるわけではない。けれど、相の顔も見ずに額だけ変える商売は、もうしたくなかった。

帰宅すると信夫が学で描いた絵を見せた。机のに台のが並び、女たちがしずつ違うの布を織っている絵だった。

真んにいる婆さんだけは腕がやけにい。

「私のはそんなにくないよ」

「みんなに届くように描いたの」

ヨシは笑って絵を壁に貼った。信夫はもう、の仕事のために学を休むとは言わなくなっていた。

それでもヨシはっていた。仕事の話が落ち着けば、薬代の問題もの古いも、また元に戻る。ひとつ終わったからといって、暮らしが全部よくなるものではない。

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