"50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客" 第13話
王者の盃
夜を過ぎた頃、の引き戸が静かにいた。
入ってきたのは、仕てのいい黒いスーツを着た柄な紳士だった。その背には、あの夜、予約ミスで半泣きになりながらび込んできたマネージャーの青が、誇らしげな笑顔で控えていた。
『プロレス』の会・神だった。
内の客たちが瞬で静まり返り、次いできなどよめきが起きた。
「あ、神会だ……!」
「本物だ! 会、武館会の超満員札止め、おめでとうございます!」
客たちからの温かい拍と歓声に、神会は穏やかにを挙げて応え、カウンターの端の席へと腰をろした。
「将。今夜は満席のところ、無理を言ってすまないな」
「とんでもありません、神会! 武館会の成功、テレビで拝見しました! 素らしい興でしたね!」
テツは々とをげ、えたジョッキに注いだ極のビールを差しした。
神会はグッと喉を鳴らしてビールをみ干すと、「ぷはっ」と息を吐き、満そうに目を細めた。
「やっぱり、ここのビールと飯は最だな。……例の男のこと、聞いたよ」
神会の言葉に、テツのがわずかに止まった。
「真治のことですか……」
「ああ。懲戒解雇になり、業界からも完全に締めされたそうだ。自業自得とはいえ、れな結末だな」
神会は串焼きを本に取り、静かに語り始めた。
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「将、プロレスのリングのにはな、『受け』という技術がある。相の渾の技を正面から受け止め、マットに叩きつけられながらも、痛みに耐えてちがる技術だ。技を避けてばかりいる奴や、相に怪をさせて自分だけ勝とうとする奴は、決してファンからされる流のレスラーにはなれない」
神会のいが、テツの顔を真っ直ぐに見つめた。
「あの男は、の受けを度も取ろうとしなかった。自分のミスから逃げ、に痛みを押し付け、自分だけは傷つかずにい所にとうとした。だから、度を滑らせただけで、度とちがれないところまで転がり落ちたのだ」
神会はジョッキを掲げ、テツの目を見据えた。
「だが、将、おは違った。あの絶望の夜、理尽なドタキャンという烈なバックドロップをらいながらも、おは腐らず、料理を捨てず、ちがった。だからこそ、俺たちはおのその気に惚れ、背を押したくなったんだ」
テツの胸の奥から、いものが込みげてきた。
あの、唇を噛み締めながら「捨ててたまるか」とちがった自分の選択は、決して違いではなかったのだ。
「会……本当に、ありがとうございました。あの夜、皆さんが来てくださらなければ、このはとっくに消えていました」
「礼を言うのはこちらの方だ。将、これからもこの旨い飯で、世のの戦うたちに力を与えてやってくれ」
つのグラスが、カチンとよい音をててぶつかりった。