"110億円を相続した妻を捨てた夫――30億円の誤算" 第11話
特捜部の鉄槌
私が図をした直、総帥のなマホガニー扉のから、響きのような無数の音が急速にづいてきた。
達也はにいつくばったまま、何が起きようとしているのか理解できず、怯えた物のように首を巡らせて扉を見つめた。
バァンッ!
激しい破裂音とともに扉がに押しかれ、濃紺の仕ての良いスーツにを包んだ屈な男たち数名が、無言の威圧を放ちながら崩れ込んできた。
京検特捜部の捜査官たちだった。
内を取り囲むように展した捜査官たちの先から、鋭利な刃物のようなを放つ代の特捜部が歩へ踏みし、懐から枚の令状を滑らかに取りした。
「そこまでだ、郷田達也」
氷柱のようにたい声が、部の空気を瞬で凍りつかせた。
「と……京検……? な、何の話だ……! 俺が何をしたっていうんだ!」
達也がずさりしながら叫ぶ。特捜部はそんな見苦しい抵抗を瞥もせず、令状の文字を容赦なく読みげた。
「京方裁判所より発付された逮捕状だ。容疑は、株式会社ゴーダプレシジョンにおける過にわたる総額億千万円の業務横領、ならびに会社法違反における特別背任罪」
「さ……億……千万……!?」
達也の顔から、残っていたわずかな気が完全に抜け落ち、気へと変わった。
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「ば、馬鹿な……! 俺は社だぞ! 自分の会社のをどう使おうと、俺の勝だろ!」
「会社はおの私物ではない」特捜部が酷に切り捨てた。「ましてや、メガバンクからの融資を、実体のないペーパーカンパニー社を経由して資洗浄し、名義のタワーマンション購入や個な遊興費に流用した為は、計画かつ極めて悪質な背任為だ。言い逃れは切通用せん」
「な……なんで、それを……」
達也がガタガタと全を震わせ、ゆっくりと首を巡らせて私を見げた。
「……美桜……まさか、おが……」
「ええ、そうです」
私はデスクのから、塚部が作成した詳細な監査報告のファイルを、達也の目ののへ容赦なく放り落とした。
ドサッ、と乾いた音が響く。
「あなたが『の設備投資で資繰りが苦しい』と嘘をつき、私に円単位の活費の節約をしていたあの裏で、私の叔父が用した命綱から億円以を盗みし、に貢ぎ続けていた証拠のすべてです。座の送履歴、産の登記簿謄本、SNSの投稿記録との照データ。すべて特捜部に提させていただきました」
「ち、違う……あれは、麗が……!」
「往際の悪い言い訳は見苦しいですよ、達也さん。あなたが仕掛けた横領の宴は、最初から神堂グループののひらので踊らされていたに過ぎなかったのです」
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その、失禁してに転がっていたかずが、警察のに気づいて半狂乱で喚き散らし始めた。
「わ、私は関係ないわよ! 全部この子が勝にやったことよ! 私は何もらない、ただの母親よ! 私を巻き込まないでちょうだい!」
実の息子にすべての罪を押し付け、自らだけが逃れようとする、醜怪極まりない保の叫び。
しかし、特捜部の線は、そんな老女に対しても容赦なくえ切っていた。
「郷田かず。貴様に対しても、横領の収受および証拠隠滅教唆の共犯として、すでに同状がている」
「へ……?」
「息子が会社の公を着している事実を認識しながら、そので級宝飾品やの便宜を受け、あまつさえ正の発覚を恐れて妻を無文で追いす謀議を主導した疑いだ。署でじっくり話を聞かせてもらう」
「嫌ぁぁぁっ! 私が科者になるなんて嫌よ! ご所に顔向けできないわ!」
かずが絶叫しながらいずり逃げようとしたが、女性捜査官名によって瞬に両腕を羽交い締めにされた。
同に、名の屈な捜査官が達也の両脇を固め、背へ力任せに腕をねじりげた。
カチャリ、カチャリ。
静まり返った総帥に、たい鋼鉄の錠がの首にくい込む属音が、度、乾いて響き渡った。
「うわああああっ! 美桜! 助けてくれ! 刑務所なんて嫌だ!」
錠をかけられた達也は完全に正気を失い、にいつくばって私の元へを打ち付けた。
「俺が悪かった! おの言う通りにする! 奴隷にでも何にでもなるから、特捜部に告訴を取りげるように言ってくれ! 百億円でおとやり直したいんだよォッ!」
と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、無様に命乞いを繰り返す男。
わずか数、私を「役たず」と嘲笑い、元へ婚届を投げ捨てた傲な経営者の面は、もはや微も残っていなかった。
すべてを失ったのだ。会社も、社会信用も、も、に入るはずだった百億円の巨万の富も。そして今、自らがねた犯罪によって、としての自由と尊厳すらも、完全に剥奪された。
私は、元で醜悪に喘ぐを、傍のを見るような絶対零度の差しで見ろした。
「、たい独のをい回りながら、己の浅ましさと欲のさを呪いなさい」
それが、私が彼らにした、最の引導だった。
「連しろ」
特捜部の号令がり、捜査官たちがを力任せに引きずり起こした。
「美桜ーッ! 百億ーッ!」
「助けてえぇぇっ! セレブになるはずだったのにぃぃっ!」
引き裂かれるようなの絶叫が、エレベーターホールの奥へとざかり、やがて完全に遮断された。
なマホガニー扉が音もなく閉じられた、総帥には、何事もなかったかのような清らかな静寂が戻っていた。
の絨毯に残された涙と汚れた染みだけが、の愚者がこの世の奈落へと転落していった唯の痕跡だった。