"110億円を相続した妻を捨てた夫――30億円の誤算" 第8話
断台の最階
曜の午分。京・町の等にを突くように聳えつ神堂ホールディングスタワーの最階、百メートルの総帥には、凍りつくような静寂が支配していた。
壁面を覆う特注の防弾複層ガラスの向こうには、のを抱いた巨な京のパノラマが広がっている。部の央に敷き詰められたのペルシャ絨毯の奥、齢数百の銘から削りされた巨な役デスクの背で、私は背筋を伸ばして本革のチェアにく腰をろしていた。
私のには、グループ顧問弁護士の先と特命監査部の塚部、そして今回の成りきを自らの目で見届けるために本から同してきたメガバンクの取が、直の姿勢で控えている。
ピン、とデスクのの内線インターホンが澄んだ子音を鳴らした。
『美桜総帥、階の正面セキュリティゲートを、郷田達也氏ならびに郷田かず氏が通過いたしました。専用の直通エレベーターへ案内済みでございます』
「ええ、そのままこちらへ通しなさい。途で警備員には切のを利かせないように」
私が極めてく、徹な声で応じると、インターホンはく切れた。
「いよいよ、彼らが自ら掘った墓穴へび込んでまいりますな」
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先が鏡の位置を正しながら、を押し殺した声で呟いた。
「ええ。曜の夕方には、私を何の価値もない役たずと罵倒し、千万円の切れに目が眩んで緑のを投げつけたたちです。そのが今、自分たちの会社を潰した顔も名もらない権力者にすがりつくため、汗と脂にまみれてこのタワーをいがってくる。これ以の劇がこの世にあるでしょうか」
私の言葉に、メガバンクの取も々とをげた。
「当としても、神堂グループの崇な信用を悪用し、あまつさえ恩を仇で返した届き者をこれ以野放しにするわけにはまいりません。総帥のご志のままに、徹底な処断を執させていただきます」
やがて、部のなマホガニー製の両き扉のから、案内役の警備員の規則正しい音と、それに引きずられるような、規則で焦燥に満ちたつの音がづいてきた。
ガチャリ、とな鍵がされ、ゆっくりと扉がけ放たれる。
「どうぞ、へ。こちらに神堂グループの最統括責任者であらせられる総帥がお待ちです」
警備員の事務で淡な声に促され、転がり込むように内へを踏み入れてきたのは、髪を振り乱し、目のにどす黒い隈を作った達也と、裾の擦り切れたコートを羽織ってガタガタと震える義母のかずだった。
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は部の途方もない広さと、元に沈む最級絨毯の触、そして部の奥に漂う圧倒な威圧に気圧されたのか、デスクに座る私の顔を確かめる余裕すらなく、部の央へみるなり、まるで糸の切れた操り形のようにへ崩れ落ちた。
ドサッ、と鈍い音が響き、は絨毯に両と額を激しく擦り付けた。
「神堂グループの総帥様! どうか、どうかお慈を! ゴーダプレシジョンをお救いください!」
達也の喉から、引き裂かれるような絶叫が漏れた。
「が社の億円の融資枠の保証を、どうか元に戻していただきたいのです! あの保証がなければ、が社は形の渡りで完全に息の根を止められてしまいます! どうか、どうかれな私どもをお助けください!」
かずもまた、髪混じりのをに何度も打ち付けながら、涙とを撒き散らして叫びてた。
「お願いします、総帥様! うちの達也は、この筋でやってきた素らしい若経営者なんです! 取引先の令嬢との再婚話もんでいて、資さえ戻ればすぐにでもち直れるんです! ご所への体裁もございます、どうか、この通りでございます!」
の資産に寄してかされていた事実をりながら、なおも自らの経営腕を誇り、世体を取り繕う浅ましさ。
その見苦しい泣き叫びが、静まり返った総帥に虚しく反響していた。