"110億円を相続した妻を捨てた夫――30億円の誤算" 第4話
スイートルームの休息と浮かれた祝杯
マイバッハは都の等に聳えつ最級ホテルの、プライベートエントランスへと滑り込んだ。般の宿泊客の線を完全に遮断した専用エレベーターに乗り込み、最階のペントハウス・ロイヤルスイートへとを踏み入れる。
なオーク材の扉をけると、内にはすでに弁護士が待していた。
「美桜様、お疲れ様でございました。先ほど、の取より当方に連絡が入りました。ゴーダプレシジョンに対する億円の保証解除通、および全座の仮凍結処理が、システムで完したとのことです」
「迅速な対応でしたね」
私はアタッシュケースを理のローテーブルに置き、く息を吐きながらソファにを委ねた。運ばれてきたダージリンティーの湯気を見つめながら、今のスケジュールを確認する。
「今は曜の夕方です。すでにの窓業務は終していますから、彼らが座の異変に気づくのはくてもの曜、あるいは本格な資ショートに直面するのは週けの曜ですね」
「様でございます」先はタブレット端末の画面を示しながら頷いた。「曜の午には、同社が振りしている千万円の仕入れ形、および諸経費の決済期が控えております。
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座が凍結されている以、決済資が引き落とされることはなく、その点で回目の渡り処分が確定いたします」
「達也さんは、その形をどうやって落とすつもりだったのでしょう」
「調査部の報告によりますと、これまでの億円の当座貸越枠から自に引き落とされるものと信じ込んでいたようです。曜の午、経理担当者に対して『曜の決済は枠内で勝に処理されるから配いらん』と言い残し、々に退社したとの記録がございます」
私は笑を禁じ得なかった。彼が「自分の経営腕」と誇っていたものの正体は、妻の親族が担保として差ししていた枠から無自覚にを垂れ流していただけに過ぎなかったのだ。
その、先のタブレットが微かに震えた。画面を確認した先の眉が、そうに歪む。
「……美桜様、神堂グループの調査部より、先ほどSNSに公されたばかりの画データが転送されてまいりました。極まりない内容ですが、状況把握のためにご確認いただけますでしょうか」
差しされたタブレットの画面には、見慣れたがの、あの暗いリビングが映しされていた。
テーブルの央には、級寿司の桶と、価なシャンパンのボトルが誇らしげに置かれている。そしてその奥には、グラスを掲げて満面の笑みを浮かべる達也と義母のかず、そして派な毛皮のショールを羽織った若い女——取引先の社令嬢、井麗の姿があった。
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『達也さぁん、本当にあのダサい奥さん追いしてくれたんだぁ! これでやっと、私たちが堂々と結婚できるね!』
麗が甘ったるい声で達也の腕に絡みつき、達也は赤ら顔で胸を張って見せる。
『当たりだろ麗! あんなも稼げない気な女、おと会うまでのただの繋ぎだったんだよ! これからはおの持参千万円を使って、会社をもっときくしてやるからな!』
『おほほほ! 本当にあの貧乏神がいなくなって清々したわ! ぶらで追いされて、今頃その辺の公園のベンチで泣き濡れてるんじゃないかしらね! 麗さん、千万円が入ったら、まずはでハワイへ豪遊旅にきましょうね!』
かずがを叩いて品に笑い転げ、つのグラスがチリンと障りな音をてて打ちわされる。
『もちろんですよ、お義母様! パパにお願いして、達也さんの会社の借もちょっとくらいなら肩代わりさせてあげるから、してね!』
画面ののは、邪魔な妻を無文で追いし、莫な持参をに入れて完全な勝者になったと信じ込み、酔して狂乱の宴を繰り広げていた。
「……千万円、ですか」
私はめかけた茶を含み、乾いた声で呟いた。
「ええ。彼女の父親が約束しているという千万円など、曜に請求される億円の括返済のでは、焼けにどころか滴のにもなりません」
「分かっています。それにしても、自分の元がすでに完全に崩落しているというのに、よくこれほど無邪気に踊っていられるものですね」
私はタブレットの画面を指先で弾くようにして暗転させた。
りなど、疾の昔に消え失せていた。そこにあるのは、自らの浅ましさと愚鈍さによって破滅の奈落へ向かって全力疾しているれな化たちに対する、絶対な侮蔑だけだった。