"5000万円の新居に義両親が無断で引っ越し――夫の嘘" 第20話
本当に招きたかった客
婚から半が経過した、の清々しいれの曜。 あの、勝な引越しトラックが押し寄せてきた忌まわしい記憶は、今やい過のへと昇華されていた。
午。居のインターホンが、澄んだ音で鳴り響いた。 モニターを確認した私は、満面の笑みで解錠ボタンを押し、玄関のドアをきくけて待った。 エレベーターからりてきたのは、私の実の両親だった。
父は仕てのいいジャケットを着てし緊張した面持ちでち、母はその隣で、ぶりの旅鞄をつだけ切そうに抱えていた。 箱のダンボールも、埃をかぶった古いタンスも、そこにはない。 ただ、泊の着替えと洗面用具が入った、慎ましいボストンバッグがつあるだけだった。
「お父さん、お母さん、いらっしゃい! いところわざわざありがとう」 私が迎え入れると、父は玄関框のでち止まり、靴を脱ぐに真剣な顔で私を見つめた。 「彩佳。……本当に、今夜泊まっていっても迷惑じゃないんだな?」
「もう、お父さんったら! 話でも回も確認したじゃない。の朝番で、くの病院で定期検診を受けるんでしょ? うちからならタクシーで分よ。泊まるために部を空けて待ってたんだから」 私が笑って促しても、父は真面目な顔を崩さず、きちんと靴を揃えながら静かに言った。
広告
『何回でも確認するさ。ここは、おのなんだからな』
「私のだからこそ、泊まってほしいのよ」 『そうじゃない。親だからといって、娘のテリトリーにで踏み込んでいい権利などないんだ。のにお邪魔する以、礼儀と慮を忘れてはいかん』
父のその言を聞いた瞬、私の目がツンとくなった。 あの、千万円というをポンと援助してくれたも、父は決して恩着せがましい態度を取らなかった。 税理士を入れ、法な線を完璧に引き、「これは彩佳のだ」と私の自の盾を作ってくれた。 そして今、を支援した当であるはずの父が、私の居に歩入るだけで、これほどまでに私の領域と尊厳を尊してくれている。
「お母さん、こっちよ。今はお客さんの部ね」 私が案内したのは、かつて健太が私のダンボールを勝に追いし、義両親の寝にしようと目論んでいた、あの畳の部だった。 今では壁面に本棚が並び、きな仕事机と最のモニターが鎮座する私の「斎兼仕事部」だが、今夜のためにデスクを端に寄せ、ふかふかの客用布団が組、綺麗に敷かれていた。
「まあ、素敵なお部ねえ。彩佳、しっかり仕事してるのね」 母が目を細めて観葉植物の葉を撫でる。 その夜、私は腕を振るい、父の好物である鯛の煮付けと、母が好きな茶碗蒸しを卓に並べた。
広告
買い取った無垢材のダイニングテーブルをで囲み、美しい酒を酌み交わしながら、のない笑い声がリビングに満ちていく。 誰かの顔を伺う必のない、義務や搾取など微もしない、本物の族の団欒。
翌朝、検診を無事に終えた両親を駅の改札まで見送った、父がポケットから鍵を取りし、私の掌にそっと戻した。 「お父さん、それ、持っていればいいのに。また検診のに使えるでしょ?」 私が押し戻そうとすると、父は優しく微笑んで首を横に振った。
『いらんよ。次に来るも、またちゃんとおの都を聞いてから来る。……鍵で勝に入れる親になったら、はおしまいだからな』 父はそう言って、母と仲良く肩を並べ、改札の向こうへと歩いていった。 そのさくも誇りい背を見送りながら、私はの澄み切った青空を仰いだ。
誰かときるということは、相の領域を力づくで奪うことではない。 ましてや、「族」や「親孝」という甘美な言葉を盾にして、のにタダ乗りすることでもない。 互いの境界線を尊し、相の「いいよ」という自発な言葉を切に受け止めうこと――それこそが、が共に暮らすための唯絶対の条件なのだ。
自分ので勝ち取り、自分ので守り抜いた私のへ、私は軽やかな取りで帰っていく。
窓から差し込む朝のが、私の未来をどこまでもるく照らしていた。