"義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句" 第2話
父が残したもの
美穂が帰宅したのは午を過ぎてからでした。玄関のドアがく閉まる音がして、続いて誰かと言い争うような声が廊から聞こえてきます。
私は寝へ戻るふりをして、扉をしだけけました。
「だから、類がないと無理だって言われたのよ」
美穂の声でした。
「までに何とかしなさい。こっちだってがないのよ」
子がい声で答えています。
「でも検証だけじゃ駄目だって。本確認も必だって言われたし……」
「由美からさせればいいでしょう」
の会話を聞いた瞬、私はようやく目を理解しました。
彼女たちはを使いたいのではありません。
売ろうとしている。
しかも、所者である私に何もらせずに。
翌朝、子は何事もなかったような顔で卓につきました。美穂も化粧で目ののくまを隠し、いつものようにスマートフォンを触っています。
健だけは本当に何もらないような顔で聞を読んでいました。
「昨、随分遅かったな」
夫が何気なく尋ねると、美穂は瞬だけ固まりました。
「友達と話が盛りがっちゃって」
「は?」
「友達のマンションに置いてきた」
私は噌汁をよそいながら、美穂の顔を見ました。
ベンツは昨夜のうちにこのへ戻っています。
玄関の窓から駐を見れば、誰にでも分かることです。
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それでも健は確かめもしませんでした。
しばらくすると子が、妙に優しい声で私に話しかけてきました。
「由美さん。美穂がしばらくを使うなら、保険のことも確認しないといけないでしょう? 検証とか名義関係の類、どこに置いてあるの?」
来た。
私は湯みを置きました。
「事な類はにはありません」
子の箸が止まりました。
「どういうこと?」
「父の相続関係の物と緒に、で保管しています」
本当はすでに弁護士へ預けています。父がくなった、度だけ子が勝に私の類を見ていたことがあり、それ以来、自宅にはな原本を置かないようにしていました。
「族なのに信用してないの?」
子の声から急に優しさが消えました。
「コピーなら必なものを確認して渡します」
「原本じゃないとがないのよ」
わずにしたその言葉に、子自が気づいたのでしょう。慌てて咳払いをしました。
「……保険の続きで必になることもあるでしょう」
私は何も指摘しませんでした。
ただ、「分かりました。必になったら確認します」と答えました。
健はやはり聞から顔をげません。
事の、夫が勤する支度をしていると、珍しく私を廊へ呼びました。
「由美。お袋が欲しいって言ってる類、してやれよ」
私は夫を見ました。
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「どうして?」
「どうしてって……の空気が悪くなるだろ」
「あのが私にとってどんな物か、あなたはっていますよね」
健は面倒そうに眉をしかめました。
「ただの古いだろ。おの親父さんが乗ってたってだけじゃないか」
胸の奥で、何かが静かに切れました。
父がくなった、健は「切に乗ればいい」と言ってくれました。
あれから。
その言葉さえ、このにとってはどうでもよかったのでしょう。
「族の平となら、普通は族を取るだろ」
健はそう言い残して勤しました。
私は玄関の鍵が閉まる音を聞きながら、しばらくそのにっていました。
けれど涙はませんでした。
代わりに、今まで曖昧だった覚悟がはっきり固まっていきました。
父は私に、だけを残してくれたのではありません。
「自分のできたいところへけ」
あの言葉も残してくれたのです。
私はもう度、自分ののハンドルを握らなければならない。
午過ぎ、美穂と子がでかけました。
私は階の窓から、ベンツがへていくのを確認すると、すぐに弁護士へ話をしました。
「先。どうやら本当にき始めました」
話の向こうで、戸先はしを置いて答えました。
「森田さん。こちらでもつ確認できたことがあります」
「何でしょう」
「昨、ある業者からあなたのについて照会がありました。ただし、話はそれだけではありません」
戸先の声がくなりました。
「ご主の名もています」
私は無識にスマートフォンを握り直しました。
健はらないふりをしていた。
そうっていたのに。
「ご主はなくとも週から、このを現化する方法について誰かと相談していた能性があります」
父のベンツを奪おうとしていたのは、義母と義妹だけではありませんでした。