みかん小説
本棚

"昭和39年、給食費泥棒にされた少女" 第4話

見たはずのない目撃者

「杉本正彦さんは、あのときでしたよね」

私が尋ねると、好トミさんはゆっくりうなずいた。

「そうだよ。先の息子で、学では誰も逆らえない子だった」

私は元の類を見直した。

『組 岸田子児童の転に関する協議』

そのにかれた『杉本正彦』という名。

よく見ると、名のにはさく『参考』と記されていた。

の協議に子どもが席したわけではない。私を転させる判断の材料として、正彦の証言が使われていたのだ。

「正彦さんは、何を証言したんですか」

好さんは首を振った。

「そこまではらない。ただ、あなたが職員にいたことを、正彦君も見たと言っていたらしいね」

私はの景をいした。

の裏には、古い箱が積みねられていた。

の放課、私は当番で使った布巾を返しにった。

そのとき、正彦が見慣れない男と緒に、箱を運んでいた。

男はいシャツにのズボンをはいていた。

私は、そのがの材を届ける業者だとった。

けれど、箱のにはパンも野菜も入っていなかった。

何冊もの帳簿と、茶い封筒だった。

正彦は私に気づくと、慌てて箱の蓋を閉めた。

『何を見ているんだ』

私は答えた。

『好さんに布巾を返しに来ただけ』

広告

すると男が笑って言った。

『ここは子どもの来るところじゃないよ』

それだけの来事だった。

翌、私は棒にされた。

当は何も結びつかなかったが、今なら気になる。

正彦はなぜ、学の帳簿を運んでいたのか。

そして、そのことを見た私を、父親であるに報告したのだろうか。

「好さん。その男のが誰だったか、覚えていますか」

「名ははっきりしないけど、の納入業者にいただとう。品だったかな」

好さんは古い記録を調べ、会社名を確認してくれた。

『品商会』

学のパンや副材料を納めていた業者だった。

私は帳に名をき留めた。

「正彦さんは、その会社と関係があったんですか」

「先と業者の社さんは、昔から親しくしていたよ」

好さんはそこで言葉を切った。

「子ちゃん。今の正彦さんは町議会議員なんだろう。気をつけたほうがいい」

私はうなずいた。

と違い、もう歳の子どもではない。

けれど、この町では今も杉本の力がい。

資料を調べるだけで役から注されたことを考えると、簡単には済まないだろう。

翌、私は役で杉本正彦に面会を申し込んだ。

断られるとっていたが、にもそのの午に会えることになった。

応接へ通されると、正彦は窓際にっていた。

広告

背広を着た姿は堂々としていたが、目元には学のころの面が残っている。

「岸田さん。久しぶりですね」

「お久しぶりです」

正彦は向かいの子を勧めた。

「古い学の資料を理しているそうですね」

「はい。そのことで伺いました」

私は、費納簿の複写を机に置いた。

「昭、私は費を盗んだと言われました」

正彦は黙っていた。

「でも、そのおはに入済みだったんです」

「それは、私には分かりません」

「正彦さんは、当のことを覚えていませんか」

「子どもでしたからね。昔の細かいことは」

私は、転に関する協議記録をした。

「ここに、正彦さんのお名があります」

正彦はを見た。

ほんの瞬、表が変わった。

「父がいたものなんでしょう」

「何を証言したんですか」

「覚えていません」

「の裏で、品のと帳簿を運んでいませんでしたか」

正彦は私を見た。

「誰から聞いたんですか」

「私が見たんです」

彼は子にもたれた。

「岸田さん。のことですよ。の記憶なんて、あてになりません」

「そうかもしれません。だから記録を確かめているんです」

私は落ち着いて答えた。

正彦はしばらく黙っていたが、やがて言った。

「父は、教育にを捧げたでした。の学を守るために、ずいぶん苦労したんです」

「それと、私が棒にされたことは別の問題です」

「昔の先方の名誉を傷つけるようなことは、控えていただきたい」

私は机ののを指さした。

「私の名誉は、傷ついたままでした」

正彦は何も言わなかった。

私は資料を封筒に戻した。

「おをいただき、ありがとうございました」

部をようとしたとき、正彦が言った。

「岸田さん。過のことを調べるのは自由ですが、資料の扱いには注してください」

私は振り返った。

「どういうですか」

「昔の学には、今とは違う事がありました。類だけを見て、違った結論をされても困ります」

「事があるなら、教えてください」

正彦は答えなかった。

私はそのまま役をた。

帰り、父のへ寄った。

父は先で、古い自転の輪を回していた。

「どうだった」

「杉本さんに会ってきた」

父のが止まった。

「の息子か」

「うん。でも、何も覚えていないって」

父はしばらく考えてから言った。

「子。、お父さんは度だけ杉本にをげたことがある」

私は驚いた。

「何のために?」

「おを教で棒扱いしないでほしいと頼んだんだ」

父は、自転の輪をゆっくり回した。

「するとは、謝罪すれば学に残してもいいと言った」

「私が盗んだと認めたら?」

「そうだ」

私は黙った。

父は続けた。

「お父さんは断った。おが盗んでいないと言っているのに、嘘の謝罪なんてさせられなかった」

「覚えているよ」

「でもな、は最に妙なことを言ったんだ」

父は顔をげた。

「『この学には、を楽しみにしている子どもが勢いる。余計な騒ぎを起こさないでくれ』と」

私は眉をひそめた。

「費の盗難と、何の関係があるの?」

「当も分からなかった」

父は言った。

「ただ、娘の疑いをらしてほしいと頼んでいるのに、は学のの話ばかりしたんだ」

私は好さんの記録をいした。

実際の数と、請求数の違い。

そして、が自然な記録を守ろうとしていたこと。

もしかすると、にとって本当に隠したかったのは、費の盗難などではなかったのではないか。

翌、私は町の古い商名簿を調べた。

昭の品商会の欄に、代表者と取引先が記載されていた。

学用の納品と照すると、つ奇妙なことが分かった。

実際に納品された材の数と、町へ請求された数が致していないが、だけでなく何かも続いていたのだ。

しかも、に残されていた控えのうち、問題のある納品だけ、受領印が好さんのものではなかった。

そこには別の印鑑が押されていた。

『森』

私はわず、を見直した。

担任の森久枝先。

、私を棒だと決めつけた先自が、実際よりい材を受け取ったことにしていた。

そして、その記録は私が転したあとも続いていた。

つまり私が学からいなくなっても、正は終わっていなかったのだ。

私はたな疑問を抱いた。

森先は、何を守るために、そんな類へ印鑑を押し続けたのだろう。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: