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"昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録" 第9話

午分の記録

話を切ってから、私はしばらくけなかった。

『午分、確認』

その記録の男性が父であるとは、まだ確かめられていない。

けれど、齢も、怪も、搬送された所も致している。

もし父なら、へ帰るつもりでいたが、たった数にくなったことになる。

私は母にすぐには話さなかった。

あのが希望を持って待ち続けたを、枚の記録だけで終わらせたくなかったからだ。

翌朝、私は崎医師の娘、崎照子さんを訪ねた。

照子さんは代で、父親が使っていた古い診療鞄を今も保管していた。

「父は、部の作業現へ往診にくことがかったんです」

居の棚には、古い医学や薬瓶が並んでいる。

照子さんは茶い袋を持ってきた。

「これが、そのの記録です」

私は枚ずつ確認した。

昭。

午分。

『男性、歳。転落による部打撲。肩挫傷。識混濁』

午分。

『呼びかけに反応。嘔吐あり。病院への搬送を勧告』

午分。

『呼吸止。蘇を試みるも反応なし。確認』

私は最のを見つめた。

父かどうか分からない。

それでも涙がそうになった。

照子さんは静かに言った。

「父は、この往診のあと、ひどく落ち込んでいました」

「どうしてですか」

「病院へ運ぶべき患者を、現に留めることになったからです」

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「誰が止めたんですか」

「分かりません。ただ、父は会社のと激しく言い争ったそうです」

私は顔をげた。

「お父様は、救急搬送を求めたんですね」

「はい。そのことは母から聞いています」

照子さんは、診療記録とは別に通の封筒をした。

には、父親がき残した覚があった。

『患者は篤。設備のある病院へ直ちに搬送すべきと言。会社側は候良を理由に待を求』

『患者本の氏名を尋ねるも、佐川登と回答。分証の提示なし』

『搬送を再求めたが、実施されず』

私はを握りしめた。

父が本当にそこにいたのなら、くなった理由のつは、病院へ運ばれなかったことだった。

「どうして、こんな記録を残したんでしょう」

照子さんは答えた。

「父は、自分が治療を続けられなかったことを悔やんでいたんだといます。正式な病院へ運べなかった事も、で説できるように残したのでしょう」

私は、昭の父の写真を見せた。

照子さんはしばらく眺めた。

「申し訳ありません。私は当、をていましたから、患者さんの顔は見ていないんです」

「いえ。記録を見せていただけただけで分です」

私はくをげた。

帰り、私は旧採へ向かった。

町の側にあるは、舗装されたところと砂利が交互に続いていた。

図に記された分岐を曲がると、錆びたが見えてきた。

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『稲葉建 旧採』

の内側にはが伸び、古いトラックの荷台が傾いていた。

敷の奥に、平の建物がある。

ここで父は、最の夜を過ごしたのかもしれない。

私はのから建物を見つめた。

窓ガラスの何枚かは割れ、根には落ち葉が積もっている。

ただ、建物の裏側には比較しい鉄製の柵があった。

その向こうには、コンクリートでふさがれたきな穴がある。

くにいた農作業帰りの男性に尋ねると、そこは昔の資材保管坑だったという。

「ずいぶんから使ってないよ。昭代の終わりには、もう埋められたはずだ」

私は礼を言い、所を帳に記した。

父がそこにいるとは限らない。

けれど、くなったとする記録がある以、そのの遺体の方も確かめなければならない。

次に私は、昭当の町の葬記録を調べた。

杉原修という名はなかった。

佐川登という名もない。

町で葬された能性もあった。

私は周辺の町へ問いわせたが、すぐには答えがなかった。

方、岸本記者は、稲葉建設にたな質問状を送っていた。

質問はつだった。

昭、旧採の宿舎へ負傷者を運んだ事実があるか。

その物を病院へ搬送した記録はあるか。

当の診療記録に記された「佐川登」という男性について、会社は把握しているか。

稲葉建設からの回答はかった。

『当の資料は現せず、確認できない』

私はその文面を見て、ため息をついた。

確認できない。

から、同じ言葉ばかりだった。

しかし、今回は違った。

森岡さんの記がある。

松さんの記録がある。

伯父の帳簿がある。

崎医師の診療記録がある。

それぞれは完全でも、同じ夜の来事をしずつ指し示している。

私は資料を刻順に並べ直した。

午分、の異常を確認。

午分、駅へ運転見わせを言。

午分、最終旅客列を見送る。

午分、父が赤灯を持ってへ向かう。

午分ごろ、臨列が止。

午分、父をトラックで搬送。

翌午分、旧採で別のに移す。

午分、医師が診察。

午分、患者。

私はその表を、母にはまだ見せられなかった。

週、伯父から通の速達が届いた。

には、会社の古い当直記録を写したが入っていた。

伯父が、昔の同僚から預かっていたものだという。

、午分。

『宿舎内作業終。佐川、別便にて搬』

搬先の欄は空だった。

だが、そのに鉛でさくかれていた。

『側資材坑、翌封鎖予定』

私は、採で見たコンクリートの穴をいした。

あれが側資材坑ではないだろうか。

父の方を調べ始めてから、初めて具体な所が浮かびがった。

私は警察に相談することを決めた。

伯父と森岡さんにも連絡し、岸本記者には原資料を預ける。

翌朝、警察署へ向かうに、母へ話した。

私は刻表のように並べた記録を、つずつ説した。

母は最まで黙って聞いていた。

『午分、確認』

そのを見たときだけ、母のが止まった。

「修なのね」

「まだ断定できない。でも、能性はいとう」

母はうなずいた。

「分かったわ。私もく」

「お母さん、無理しなくていいよ」

「いいえ。今度は、あなたにはかせない」

母はちがり、箪笥から黒い提げをした。

には父の写真と、保管していた計が入っていた。

「もし修があそこにいるなら、迎えにかなきゃ」

私は何も言えなかった。

そして、そのの午。

警察署で事を説している最、岸本記者から話が入った。

稲葉建設が、翌朝から旧採の事を始めるという。

私は受話器を握り直した。

「側の資材坑もですか」

「はい。事予定図には、埋設部分を掘り直すとかれています」

私は警察官を見た。

「お願いです。あの所を、先に調べてください」

父の最の記録が残っているかもしれない所が、また消されようとしていた。

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