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"昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録" 第8話

父がついた嘘

翌朝、私は再び川へ向かった。

伯父はよりも顔が悪かった。

卓には、昭の事関係類が並べられている。

「全部持って帰ってくれ」

伯父はそう言って、古い封筒を差しした。

表には『第号梁補修事 完検査』とかれている。

私は類を取りした。

補修事の写真が枚あった。

枚目は、擁壁の亀裂を写したもの。

枚目は、作業員がモルタルを塗っている面。

枚目には、父が写っていた。

作業姿の父は、補修された壁のにっている。

写真の裏には、付があった。

昭。

「父は、事の現にっていたんですか」

「そうだ」

「でも、点検報告では、事が終わったと聞かされて署名しただけだと……」

伯父は首を横に振った。

「修は、事が分だとっていた」

私は写真を見直した。

父は壁の端を指さしている。

隣につ男は、稲葉建の現責任者だった。

「そのとき、修は言ったんだ。これではが増えたら危ない、と」

「だったら、どうして全だと署名したんですか」

「駅から、残りの補はすぐにうと説されたからだ」

「本当に、それだけですか」

伯父は私の顔を見た。

「修は、駅に逆らえなかった。正式な駅員になって以たっていたが、族もいた。仕事を失うことを怖がっていたんだとう」

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私は写真を机に置いた。

「でも、危険だとっていたなら、署名してはいけなかった」

「そのとおりだ」

伯父は否定しなかった。

「私も同じだ。事費の処理がおかしいと分かっていたのに、見て見ぬふりをした」

これまで私は、父が正をり、それを正そうとして消されたのだと考えていた。

父は、最初から勇敢にち向かったではなかった。

危険をりながら、いったんは全だと署名してしまった。

そこには、私が見たくなかった父のさがあった。

「修はそのあと、どうしたんですか」

「に報告へ署名した。でも、ので擁壁が崩れ始めた。それで、もう黙っていられなくなったんだ」

「それが、運転止を求めた報告ですね」

「そうだ。駅は受け取らなかった。修は、正式に記録へ残すと言っていたらしい」

私は資料を理しながら尋ねた。

「稲葉社は、父が正を告発することを恐れたんですか」

「そうだとう。事費はすでに支払われていた。実際には必な補が終わっていなかったと分かれば、会社も駅も責任を問われる」

「だから、事故のあと父を宿舎へ連れていった」

伯父はうなずいた。

「社は、そこで休ませてから病院へ移すと言った。私もそう信じたかった」

私は伯父を見た。

「伯父さんは、父の怪を見たんですよね」

「ああ」

「どんな状態だったんですか」

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伯父はく息を吐いた。

「額に傷があった。識は途切れたり戻ったりしていた。ので度だけ、私の名を呼んだ」

「何て言ったんですか」

「『信夫さん、千鶴にはまだらせないでくれ』と」

私は顔をげた。

「父が、そう言ったんですか」

「そのあと、すぐに続けた。『ちゃんと話せるようになってから、自分で謝る』って」

伯父は目を伏せた。

「修は、事の点検に署名したことを悔していたんだとう。千鶴に配をかけたくなかったんだろう」

その言葉が胸に刺さった。

父は、帰るつもりだったのだ。

母に説し、謝り、何が起きたのかを話すつもりでいた。

だが、帰ってこなかった。

「宿舎へ着いてからは?」

「社が、医者が来るから私たちは帰れと言った」

「伯父さんは帰ったんですか」

「すぐには帰らなかった。修を病院に運ぶべきだと頼んだ。でも、社はけ方にはをすと言った」

「それで?」

「午半ごろ、私がもう度様子を見にくと、修は別の部へ移されていた。医者が診ているから入るなと言われた」

私は机のでを握った。

「翌朝は?」

「会社へったら、修はすでに京の病院へ移ったと聞かされた」

「病院の名は?」

「教えてもらえなかった」

「それで、信じたんですか」

伯父は首を振った。

「信じたかったんだ」

私はそれ以、何も言えなかった。

伯父は、父が危険な状態だったことをりながら、く求しなかった。

そのも、を閉ざした。

けれど、伯父を責めても、父の方は分からない。

私は類を持ってちがった。

「宿舎の所を教えてください」

伯父は図を取りし、の側を指さした。

「ここだ。昔は採の事務所だった。今は使われていないはずだ」

「そこに、父の記録が残っているかもしれません」

「美緒」

伯父が呼び止めた。

「つ、気になることがある」

「何ですか」

「当の嘱託医は、父親のりいだった。崎という医者だ。昭代に診療所を閉じたが、娘さんが記録の部を保管していると聞いたことがある」

私はその名を帳にいた。

「崎先は、今もきていますか」

「くなった。でも娘さんは、野内にいるはずだ」

そのの夜、で資料を広げていると、母が部に入ってきた。

私は父が全報告に署名したことを話した。

母は驚かなかった。

「っていたの?」

「修が悩んでいたのはっていたわ」

「どうして、話してくれなかったの」

母は子に座った。

「あなたが父親を信じようとしているときに、失望させるのが怖かったの」

「でも、お父さんが違ったことをしたなら、それもらなきゃいけない」

母はうなずいた。

「そうね」

私は写真を母に渡した。

父が擁壁のにっている。

母はその写真を見つめた。

「修は、偉いじゃなかったのよ」

母は静かに言った。

「仕事のことで愚痴も言ったし、駅さんに逆らえなくて落ち込んだこともあった。あなたがをしたときも、夜勤を交代できなくて、私がったことがある」

「うん」

「でも、何かを違えたとき、最には自分で直そうとするだった」

私は写真を受け取った。

父を派なとして取り戻したいとっていた。

けれど、これから私がる父は、そうではないのかもしれない。

く、違いも犯し、それでも最に何かをしようとした。

私は、その父をりたかった。

翌、崎医師の娘さんに話をかけた。

事を話すと、相はしばらく黙り込んだ。

「杉原修さん、というお名ですね」

「はい」

「父の古い診療記録に、その名があるかもしれません」

私は息を止めた。

「確認していただけますか」

「ただ、し気になることがあるんです」

「何でしょう」

「父の記録には、の夜に診察した男性がいます。でも名は杉原ではありません」

「別の名なんですか」

「ええ。仮の名で登録されているんです」

彼女はをめくる音をてた。

「『佐川登、歳』。部傷。搬送元は稲葉建の作業員宿舎」

私は鉛を握り直した。

父が失踪した当、歳だった。

「そのは、どうなったんですか」

話の向こうで、をめくる音が止まった。

「診療記録には、翌朝の欄に赤い線が引かれています」

「何といてありますか」

彼女は度息をえた。

「『午分、確認』とあります」

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