"四年分の介護記録" 第7話
届いた赤
「お……最初からこれが目だったのか……」
健はソファーにへたり込み、憎悪に満ちた目で由美を睨みつけた。
「介護を実に、狂った母さんをなずけ、俺の遺産を横取りするために……! 、俺からを巻きげながら、裏で弁護士と結託して俺を陥れる罠を張っていたんだな! この悪魔のような女め!」
「悪魔、ですか」
由美は自嘲するようにフッと息を漏らした。その表には、激昂も揺もなく、ただく濁ったれみだけが浮かんでいた。
「健さん。あなたがそんな劣な妄で自分を慰めるに、もうつ、あなた宛てに届いているな類をお渡ししておきましょう」
由美は黒いバインダーの最のポケットから、通の青い封筒を取りした。そこには、健が勤める証プライムの商社「帝都物産」のロゴマークが鮮に印刷されていた。
「……本社の事部からの親展便か?」
「ええ。に届きました。駐員としての帰任命令……と、あなたは信じ込んでいるようですね」
健はひったくるように封筒を奪い、からつ折りにされた類を引きした。
『通』
その々しい朝体の見しのに、酷な文言が並んでいた。
『貴殿に対し、就業規則第条(懲戒事由)第項第号および第号に基づき、本付をもって【懲戒解雇】処分とすることを通いたします。
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なお、退職については同規則第条に基づき全額支とし、、社内監査委員会より損害賠償請求の提訴をう予定です』
「ちょ、懲戒……解雇……!? 退職、全額支……!?」
を持つ健の指先から力が抜け、類がハラハラとフローリングのへと落ちていった。
「な、なんでだ……! 俺はシンガポール支社でトップの営業成績を叩きしたんだぞ! 本社の営業本部への栄転が決まっていたはずだ! 何かの違いだ、事部の謀だ!」
「違いではありませんよ」
由美が淡々と告げた。
「シンガポール駐の、あなたが現法の女性スタッフ、リンダ・タンと倫関係にあったこと。そして、彼女のために借りげた最級コンドミニアムの賃、毎週末のバリ島やプーケットへのプライベート旅費用、総額千百万円相当を、すべて『顧客接待費』および『現調査費』として正に経費処理していた事実が、本社の監査部によって完全に裏付けられたのです」
「な……な、ぜ……」
健の喉仏がし、脂汗が顎から滴り落ちた。
「なぜ、それを……」
「あなたが私に送ってきた、マリーナベイ・サンズのプールサイドの写真ですよ」
由美はスマートフォンを取りし、画面に枚の画像を表示させた。、健が自げに由美へと送りつけた、抜けるような青空とインフィニティ・プールの写真だ。
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「この写真の隅。サングラスのレンズの反射に、ビキニ姿の若い女性があなたにカクテルを渡している姿がはっきりと写り込んでいました。そして彼女がにしていたブランド物のバッグ……あれは、あなたが『族カードの枠が限に達した』と嘘をついて、私に活費の減額を求めてきたまさにそのに、シンガポールの免税で購入されたものでした」
由美の瞳の奥が、徹なを放った。
「私はかつて、システムエンジニアとして企業の基幹データベースの監査設計をしていました。あなたが自宅のパソコンに残していったクラウドストレージのログイン履歴、張経費の申請データのき、そして現クレジットカードの利用細の断片を復元することなど、赤子のをひねるより簡単でした」
「お、お……俺のパソコンをハッキングしたのか!?」
「夫が族を捨ててで何をしているのか、正当な権利として確認したまでです。私は集めたすべてのデータ、領収のコピー、そして現の探偵事務所が撮したあなたとリンダ氏の決定証拠写真を冊の報告にまとめ、弁護士を通じて帝都物産のコンプライアンス委員会および事監査へ直接提いたしました」
由美はに落ちた懲戒解雇通を、爪先で静かに踏みつけた。
「コンプライアンスを最する現代の商社が、度の認症の母親と病の妻を本に放置し、会社のを横領して現と豪遊していた男を、営業本部に据えるとおいでしたか? あなたは栄転で帰国したのではない。会社からすべての権限を剥奪され、首に縄をつけて呼び戻されたのですよ」