"四年分の介護記録" 第4話
破壊された聖域
写真に写っていたのは、かつて健がこので何よりも誇りとしていた、階の奥にある畳の斎だった。
しかし、そこに写る景は、爆撃を受けた瓦礫のそのものだった。
健がシンガポールへ発つ直、ボーナスと貯を注ぎ込んで購入したイタリア・ポルトローナ・フラウ社の総革張りリクライニングチェア——定価百万円の逸品が、鋭利な刃物で滅刺しにされ、内部の黄ばんだウレタンが内臓のように引き裂かれてびしていた。
壁面に特注で作らせたマホガニー材の本棚は、無残に倒壊し、読していた経済誌や美術全集が面に散乱している。
さらに、健がかけて集めた代物のシングルモルトウイスキーのボトル数本がすべて叩き割られ、級なペルシャ絨毯はウイスキーと得体のれない汚物で田のように変していた。そして、定価百万円を超えていたマッキントッシュの級真空管アンプとスピーカーは、サランネットが無残に引きちぎられ、ドス黒い排泄物がべっとりと塗りたくられていた。
その獄のような廃墟の央に、髪を振り乱し、庭の刈り鎌を握りしめて座り込んでいる、痩せ衰えた老女の姿があった。
母の静だった。
「ひっ……!」
健の喉から、みっともない鳴が漏れた。
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「な、なんだこれは……! 俺の部が……俺のコレクションが……!」
「ののことです」
由美はまるで、のの事を淡々と報告するように語り始めた。
「お義母さんの徘徊を止めるために、私が玄関の鍵をに閉めたその夜でした。お義母さんは突然、『健が部に閉じ込められている! あの棒女が息子を殺そうとしている!』と叫びし、物置から刈り鎌を持ちしてきたのです。そして、あなたの斎の頑丈なドアノブを、狂ったような力で何度も叩き壊し、部のへてこもりました」
由美は線を伏せ、その夜の悪をなぞるように言葉を紡ぐ。
「お義母さんは、アンプの裏や本棚の隙にあなたが隠されているとい込み、当たり次第に物を叩き割り、切り刻みました。そして、暗ので恐怖のあまり失禁と脱糞を繰り返し、汚れたで部じゅうを触り回ったのです。夜がけて警察と鍵け業者を呼んでドアをこじけたときには……あの部にあったものは、何つとして原型をとどめていませんでした」
「お、お……! にいながら、なんで止めなかったんだ!」
健は血相を変えてちがり、テーブルに両をついて叫んだ。母親の精神崩壊よりも、自らの価なコレクションが無残に破壊されたことへのりが、理性を完全に焼き尽くしていた。
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「警察でも救急でも呼んで、力ずくで取り押さえればよかっただろうが! わざとだな!? 俺がで成功しているのが妬ましくて、わざと狂った母さんを俺の部に入れたんだろ! この役たずの無能女が!」
唾をばして鳴り散らす健。
かつてなら、この声を聞くだけで由美は青ざめ、涙を流して「ごめんなさい」と許しを請うていた。この絶対な恐怖による支配こそが、健がかけて築きげた庭の力学だった。
しかし、目のの髪の女は、微だにしなかった。
それどころか、由美の唇の端が、嘲るように微かに吊りがった。
「警察も救急も、あの夜だけで度呼びましたよ。ですが、精神科の緊急病はどこも満。駆けつけた警察官も『庭内の器物損壊では介入できない』と肩をすくめるだけ。……健さん、あなたがシンガポールで、夜な夜な級クラブでシャンパンを抜いていた、まさにそののことですよ」
「ぐっ……!」
「そして、あの部の損害と、そのの莫な費用を補填するために、私は売りました」
「……何を売っただと?」
「あの部のクローゼットの奥で、奇跡に汚染を免れていたあなたの私物ですよ。ロレックスのデイトナ、オーデマ・ピゲ、ブランドスーツの数々、あなたがガレージに放置していった限定モデルのBMW、そしてゴルフの会員権……すべて古買取業者を呼んで、束文で現化しました。
それでもりず、私の結婚指輪も、実の母の形見の着物も、すべて質に入れました」
「き、貴様ッ……! の財産を勝に売り払いおって! 横領だ、警察に突きしてやる!」
「どうぞ、今すぐ警察をお呼びなさい」
由美は静かに背筋を正し、酷に言い放った。
「困窮した留守宅で、介護の実母の命を維持するために、やむを得ずの夫の産を処分した妻。法廷でどちらの言い分が通るか、試してみますか?」
言葉に詰まり、喉をヒューヒューと鳴らす健のに、由美の決定な宣告が突き刺さった。
「あなたの斎は、もうこののどこにもしません。……業者を入れても壁もすべて解体し、コンクリート剥きしの状態から、完全に作り直しましたから」