"葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡" 第1話
張の朝の約束と消えた常
初旬の肌寒い朝、台所の換気扇がく唸りをげていた。 私――佐藤美(さとう・みわ・歳)は、フライパンで目玉焼きを焼きながら、張へ向かう夫・直(なおと・歳)の通勤用ステンレスボトルにいほうじ茶を注いでいた。 ダイニングテーブルの席では、学になる歳の娘・咲(さき)が、トーストを頬張りながらを乗りしている。
「お父さん、今の夜……じゃなくて、の夜帰ってきたら、絶対に聞いてほしい話があるの!」 咲のきな瞳が期待に輝いていた。 昨、学の国語の授業で「私の推薦する冊」と題した読発表会があったのだ。内気でにるのが苦な咲が、何週もから図に通い詰め、原稿用に何度も推敲をねて挑んだ台だった。 何よりも、仕事が忙しくてすれ違いがちな父親に番に褒めてもらいたくて、昨夜からずっと話すタイミングを待ち構えていたのだ。
直はネクタイを締め直しながら、壁の振り子計に線をらせた。 元の黒いビジネスバッグには、県の型物流拠点へ導入する規システムの監査資料がぎっしりと詰め込まれている。 「ごめんな、咲。今はこれから幹線に乗らなきゃいけないんだ。の夜、横浜の駅に着いたらまっすぐ帰ってくるから。
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そのに、おの発表の話、ゆっくり聞かせてくれ」 直はすまなそうに眉をげ、咲のポニーテールを優しく撫でた。 咲は瞬だけ唇を尖らせたが、すぐに満面の笑顔を咲かせて頷いた。 「うん! 約束だからね。絶対に忘れないでよ!」
その、奥のの襖がピシャリと音をててき、義母の数枝(かずえ・歳)が眉にい皺を寄せて入ってきた。 「直、忘れ物はないんでしょうね。寒くなるんだから、私がタンスの番にしておいたのインナーはちゃんと鞄に入れたの?」 番、を過ぎた息子の世話を焼き、柄を誇示するように私を瞥する。 「母さん、美が全部パッキングしてくれたから丈夫だよ」 直が苦笑いしながらちがると、数枝は満げにを鳴らし、今度は私に向き直った。
「美さん。直がかけたら、午のうちに本の鈴さんのところへ話を入れておきなさい。来の法事の引き物のことで、先方の奥様が細かい指示をしたいっておっしゃっていたから」 私はほうじ茶のボトルの蓋を閉めるを止めた。 「お義母さん、申し訳ありませんが、今は朝から品卸のパートのシフトが入っています。鈴様とのお話は、いつも以引きますし、職の休憩では途で切るわけにもいきません。
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夕方、仕事から戻り次第、私からかけ直しては駄目でしょうか」
「何を言っているの」数枝はたく言い放った。「パートごときの都で本を待たせる気? 空いたに分か分で済ませればいいじゃないの。これだから世らずの嫁は困るわ」 臓の奥がチクリと痛んだ。勤の慌ただしいに、なぜ理尽な嫌を浴びせられなければならないのか。 わず反論しかけた私の袖を、直が横からそっと引いた。 「美、母さんも悪気があるわけじゃないんだから。穏便に頼むよ」
――まただ。 このに同居して。義父がくなり、になった義母を引き取って以来、直は常にこうして「を取り持つ」ふりをして、私にをいてきた。 族の平穏を守るため、波をてないため。私が笑ってみ込みさえすれば、このは丸く収まる――そう自分に言い聞かせてきただった。 「……分かりました。職の責任者に断って、昼休みににお話してみます」 私がをげると、数枝は当然といった顔で茶ののテレビをつけた。
「ってくるよ。着いたら連絡する」 玄関で靴を履いた直が、私に向かってさくを挙げた。 「気をつけてね。無理しないで」 ドアが閉まり、静寂が戻る。 それが、夫と交わした最の、温かな言葉のやり取りになるとは、そのの私にはる由もなかった。