"母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日" 第4話
「便利な財布だったんだよ」
翌の午、実の玄関を激しく叩く音がした。
「由美! いるんだろ!」
浩司だった。
は突然の夕だった。
玄関をけると、浩司は傘もまともに差さず、肩から髪まで濡れていた。には、くしゃくしゃになった封筒を握っている。
瀬先から義実へ送った通だった。
をめぐる今の話しいは代理を通すこと。
私の同なく担保提供や名義に関する続きをめないこと。
そして、今の使用について正式に協議したいという内容だ。
「お、何の真似だ!」
浩司は玄関へ入るなり鳴った。
「から話が来たぞ! 融資の話が止まったじゃないか!」
「私のだからです」
「夫婦なんだから同じだろ!」
「同じではありません」
私が静かに答えると、浩司は瞬言葉を失った。
これまで私がこんな言い方をしたことがなかったからだ。
いつもなら、「ごめんなさい」「分かったわ」と答えていた。
浩司は苛ちをごまかすように封筒を振った。
「親父が言ってる。今すぐ権利と実印をせ。話はそれからだ」
「しません」
「由美!」
「母が私に残したです。あなたたちが勝に借の担保にしていいではありません」
浩司の顔が赤くなった。
そしてりに任せて、決定な言葉を吐いた。
「勘違いするなよ。おの母親は、俺たちにあのを貢いだんだ」
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私はけなかった。
「何ですって?」
「娘が捨てられないように必だったんだろ。男の子も産めない、取り柄もない娘が、うちに置いてもらえるようにな。くらいして当然じゃないか」
浩司は笑った。
「おの母親は、便利な財布だったんだよ」
胸の奥を刃物で切られたようだった。
母の指をいした。
になるとひび割れ、絆創膏だらけだった指。
私の制を縫い直し、自分のは何も買わなかった。
私の結婚が決まった、番んでくれた。
その母のを、この男は「便利な財布」と呼んだ。
私は拳を握った。
鳴りたい。
頬を叩きたい。
ていけと叫びたい。
けれど母の声が聞こえた気がした。
『本当にいは、騒がないのよ』
私は度目を閉じ、ゆっくりいた。
「帰ってください」
「は?」
「母のです。度と、母を侮辱しないで」
浩司は私の表を見て、初めてし怯んだ。
それでもがるように歩づいた。
その拍子に肩に掛けていた鞄がへ落ちた。
ファイルや類が玄関へ散らばる。
「ちっ……」
浩司がしゃがみ込むよりく、私の線は枚の写真に止まった。
黒のさな超音波写真。
隣には産婦科の診察券のコピー。
《妊娠16週》
そして宅メーカーのパンフレット。
かれたページには、世帯宅の取りがあった。
の形は、私のとほとんど同じだった。
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「返せ!」
浩司が青ざめてを伸ばした。
私は写真をに取り、スマートフォンで撮した。
宅資料も同じように記録する。
「そういうことだったのね」
自分の声が驚くほどたかった。
「違う。これは……親父が勝に」
「美穂さんでしょう?」
浩司の顔から血の気が消えた。
「どうして、その名を……」
私は答えなかった。
答える必もなかった。
「昨、美穂さんに送るはずのメッセージを私に送ったでしょう」
「由美、待ってくれ」
「お義父さんもお義母さんもっているのね。録音で聞きました」
浩司の唇が震え始めた。
ほんの数分まで、母を笑っていた男とはえない顔だった。
「ていって」
「話を――」
「帰って」
私が玄関の扉をくと、浩司はのへた。
しばらくのからこちらを見ていたが、やがて逃げるように発した。
私は扉を閉めた。
元には、浩司が慌てて拾い忘れた枚のが残っていた。
それを拾いげる。
級ホテルのラウンジのレシート。
分。
付を見た瞬、呼吸が止まった。
母の葬儀のだった。
あの、浩司は「仕事のトラブルが起きた」と言って葬儀の途で帰った。
私は夫に頼ることもできず、で弔問客にをげ続けた。
その頃、浩司は美穂と会っていた。
もう迷いはなくなった。
その夜、私は瀬先へ話した。
「先」
「はい」
「婚の準備もお願いします」
話の向こうで、先はく黙った。
「本当に決めたんですね」
「はい」
私は仏壇の母を見た。
「もうつも渡しません。母が私に残したものも、私自のも」