"母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日" 第3話
母の座から消えていた
翌朝、実で目を覚ました、私はしばらく井を見つめていた。
義実にいた頃なら、午には起きなければならなかった。義父は半に朝、義母は。浩司はそのの気分によってべるが違う。しでも噌汁がめていれば文句を言われ、聞の置き方が違えば義父に舌打ちされた。
それが、私の常だった。
けれど今朝聞こえるのは、蝉の声と鈴の音だけだ。
私はゆっくり顔を洗い、母の仏壇へとお茶を供えた。
「お母さん、おはよう」
自分の声がのへ穏やかに広がった。
午、私は初盆の準備を始めた。
庭の雑を抜き、仏壇を拭き、所ので買った胡瓜と茄子で精霊馬を作る。母は毎、この作業をとても丁寧にしていた。
『ご先祖様を迎えるくらい、焦らないの』
子供の頃、割り箸を斜めに刺してしまった私に笑いながら教えてくれた。
そのをいした、私は母の古い通帳のことをいした。
くなってからそのままになっていた座だ。
相続続きについて瀬先から「初盆が終わったら理しましょう」と言われていたため、通帳と必類を持ってくのへ向かった。
待ちの、何気なく記帳へ通帳を入れた。
械音と共に、空だったへ数字が印字されていく。
広告
その最のページを見た瞬、私は呼吸を止めた。
母がくなるか。
万円。
万円。
万円。
自然な額が度いていた。
しかも部は振込扱いになっている。
振込先の名を見て、元が揺れるような覚に襲われた。
《タカハシ ミホ》
昨、浩司が誤送信した相。
美穂だった。
「どうして……」
声が漏れた。
そこで記憶が蘇った。
母が急に体調を崩し、救急搬送されたのことだ。
私は病院かられられず、入院に必な支払いと用品の準備を浩司へ頼んだ。
『お母さんの座から必なおをして。暗証番号はこれだから』
そう言って母のキャッシュカードを渡した。
浩司は面倒そうな顔をしながら受け取った。
返してもらったのは数だった。
そのに何をしたのか。
私は窓で職員へ事を説した。ただし古い取引の詳細や操作経については、そのですべてが分かったわけではない。必な照会には続きがいると言われたので、私は記録を保管し、瀬先へすぐ連絡した。
「分かりました。通帳のコピーを取ってください。お母様がカードを預けた期となるならです」
「先……母のおまで使ったんでしょうか」
「今の段階では断定しない方がいい。ただ、確認する価値は分あります」
話を切った、私はの子に座ったままけなかった。
広告
倫されたことよりも、を狙われたことよりも、その数字が許せなかった。
母は病院のベッドで苦しんでいた。
事もほとんど喉を通らず、私にまで配をかけまいと笑っていた。
そのに浩司が母のおを別の女へ渡していたのだとしたら。
母の老資。
母が指に針を刺しながら貯めたお。
私は通帳を閉じた。
議なほど涙はなかった。
りがたすぎて、涙になるに体ので固まってしまったようだった。
実へ戻り、ノートパソコンをいた。
に瀬先から勧められ、自宅に残してあった古いスマートフォンの録音データを確認する。以娘の織が使っていた端末で、斎に置いたままになっていたものだ。私はをる、それを録音状態にしていた。
ただし、これがでどこまで使えるのかは先に判断してもらうつもりだった。
再すると、義実の居の音が聞こえた。
器の音。
テレビ。
義母の笑い声。
そして義父の声。
『印鑑は見つかったのか』
『ああ。寝の桐箱にあった。あいつ、あんな分かりやすいところに置いてるんだからな』
浩司が笑った。
義父も笑う。
『よし。、へ持っていけ。融資がりたら、この古いは潰して建て替えるぞ』
私は再を止めなかった。
次に聞こえた言葉で、が止まった。
『美穂さんもぶわねえ』
義母だった。
『今の嫁よりずっとげがあるし。赤ちゃんも男の子かもしれないんでしょう?』
しばらく、何も聞こえなくなったような気がした。
録音は続いている。
けれど私のには届かなかった。
赤ちゃん。
美穂。
建て替え。
私を追いした翌に、彼らはすでにしい族の話をしていた。
つまり浩司の倫を、義父母もっていた。
それどころか、私のに浩司とが暮らすためのしいを建てる計画に加わっている。
私は再を止めた。
パソコンの黒い画面に、自分の顔が映った。
、族だとっていたたちだった。
けれど彼らにとって私は、事をする女であり、を提供する名義でしかなかった。
そのの夕方、瀬先から連絡が入った。
「由美さん。融関側へ、所者として同していない旨を正式に伝えました。現状で勝に担保設定がむことはありません」
「ありがとうございます」
「それと、ご主へ直接何か言わないでください。まだ相は、あなたがどこまでっているか把握していません」
私は窓のを見た。
夕焼けの向こうから、母の初盆がづいていた。
そして私はった。
母を迎えるこの数だけは、あのたちに壊させない。
けれど、そのは違う。
母がを削って守ってくれたものを、今度は私が守る番だった。