"雨宮停留所の黄色い傘" 第7話
のの証言
留所に着くと、の姿は消えていた。佐子さんだけがベンチに座り、濡れていないで布袋を抱えていた。塚は彼女のにしゃがみ、初めて自分が隠していたことを話した。
「信夫くんは、あの、バスに乗りました。私が乗せました」
佐子さんは、彼の顔を見つめた。最初はが分からないようだった。それから、眉に皺を寄せた。
「乗ったの? じゃあ、どこへったの」
「駅まで送りました。に帰りたくないと言っていました」
「私を置いて?」
塚は答えられなかった。
佐子さんはちがり、彼の胸を度だけ叩いた。くはなかった。それでも塚は、じろぎもしなかった。
「どうして、言ってくれなかったの」
「怖かったんです。ご主に責められて、仕事も失うとった」
「私は、あの子がいなくなったから、ずっとここに来ていたのよ」
声は震えていたが、彼女の目はしっかりしていた。職員が来るまで、私たちはそのをれなかった。佐子さんは帰りのので、何度も「信夫はバスに乗った」と繰り返した。
施設の相談員と話しい、私はを渡すのではなく、本が選べるように説することにした。佐子さんは翌、落ち着いたに、最初のをけた。読みげたのは、施設の職員だった。
『母さんへ。僕は元気です。いつか迎えにくつもりです。
広告
でも、母さんが父さんのそばにいることを選ぶなら、僕はそれを止められない。母さんが自分で決めたことを、僕は尊したい。』
佐子さんは目を閉じた。読み終わるまで、何も言わなかった。
「私は、あのをにできなかったの」
彼女は、くなった夫のことをそう言った。
「信夫は、私を連れていこうとした。でも私は、父親のそばに残った。あの子が帰ってこないのは、私が選んだからなのね」
彼女の言葉は、罪を認めるようでも、自分を責めるようでもあった。私は「そうです」とは言わなかった。あの夜にどんな事があったのか、彼女の記憶だけでは分からない。信夫が母を責めたのか、母が息子を拒んだのか。には、そのどちらもかれていなかった。
佐子さんは、通目を読むのはまた別のにすると言った。彼女には、自分でを決める権利がある。
その夜、私のにがてきた。彼は、宮留所のベンチに座り、濡れた靴を両で抱えていた。
「母さんは、読んだ?」
「通だけ」
「そう」
「あなたは、なぜ帰れないの」
は、初めて私を見た。
「帰っていいって、誰も言ってくれなかったから」
目が覚めたとき、枕元に見らぬ切符が置かれていた。付は昭。先は、ではなく、京だった。
佐子さんは、信夫が自分を連れていこうとした話を聞いたあと、しばらく事をしなかった。
広告
職員は、昔の記憶がよみがえって気持ちが定になることを配した。私は面会のたび、の続きを読むか尋ねたが、彼女は「今はやめておく」と答えた。
数、彼女から「信夫がをる、私は何をしていたの」と聞かれた。私は、分かっていることだけを話した。彼女は、夫が転んで腕を打った夜に、救急を呼ぶかどうかで迷っていたことをいした。信夫は母を連れそうとしたが、彼女は夫をにできないとに残った。
「私は、夫を助けたかったのかしら。それとも、夫に逆らうのが怖かったのかしら」
私は答えなかった。彼女は自分で記憶を探し、初めてその問いをにした。
佐子さんがを読むことにしたのは、私が「読みますか」と尋ねたからではなかった。ある朝、彼女は自分から封筒を持って相談員のところへった。
「今は、あの子の返事を読みたい」
には、信夫がをた夜のことがかれていた。彼は駅から話をしたあと、母が来てくれるのを待った。しかし、父親は話で「母さんはかない」と言った。信夫は、それを信じて列に乗った。
「私は、くと言ったのに」
佐子さんは、を読み終えたあと、そうつぶやいた。
記憶のでは、彼女は夫の病をしていた。でも、同に信夫を探しにをるつもりだったのかもしれない。
夫が話を切ったあと、何があったのかは、彼女にもいせなかった。
彼女は、信夫のを胸に抱いたまま、しばらく窓のを見ていた。
佐子さんは、信夫の話を聞いたあと、職員に「今はもう帰って」と言った。彼女はになり、青い折りを折り直した。翌朝、折りはさなバスの形になっていた。窓には分のが描かれている。彼女はそれを私に見せ、「今度は緒に乗るの」と言った。
佐子さんは、信夫に会うと決めた翌、施設の職員へ「息子に言いたいことがある」と頼んだ。彼女はに「来てくれてありがとう」といた。字は揺れていたが、名だけははっきりしていた。信夫はそのを受け取り、何度も折り直して胸ポケットにしまった。
佐子さんは、面会のあと自分から夕をべた。
私は、本が望む速さを守ることも切だとった。