"息子が遺した証拠" 第3話
忍び寄る噂と部の来訪
に入り、松本の町に蝉がり注ぎ始めた頃、その疑惑は所の噂という最悪の形で具現化した。
朝、源郎が集積所へゴミをしにくと、向かいのにむ世話好きの島田の奥さんが、招きをしてりでづいてきた。 「源さん、ちょっといいかい……?」 辺りをキョロキョロと見回し、声を潜める。 「こんなこと、内に言うのも憚られるんだけどね。先週の曜の夜頃、松本駅のロータリーで美咲さんを見かけたのよ」 「美咲を……ですか?」 「そうなのよ。それもね、若い男ののに乗り込むところだったの。代半くらいの男でね、はいセダンで、名古ナンバーだったわよ」
源郎の臓が、ドキンと嫌な音をてた。 名古ナンバーの、若い男の。
「美咲さんもまだ若いし、未になったばかりで寂しいのは分かるんだけどね。でも、が過ぎたばかりで、翔太君もいるっていうのに、夜遊びなんて……源さんも苦労するわねえ」 島田の奥さんは同と好奇の入り混じった目で源郎の顔を覗き込んだ。 源郎はゴミ袋を置き、背筋をピンと伸ばして毅然と言い放った。 「島田さん、ご配はありがたいが、うちの嫁に限って貞な真似など断じてありません。何か別の事があるはずです」 そう言ってに自宅へ戻ったものの、閉めた玄関の引き戸に背をもたれかけさせた瞬、膝から力が抜け落ちそうになった。
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若い男。名古。曜の夜。 健太がんだのは、名古だ。 美咲が隠している「野暮用」とは、本当に男絡みのことなのだろうか。あれほど健太をし、甲斐甲斐しく尽くしてくれた嫁が、息子のからヶも経たないうちに別の男と逢瀬をねているというのか。
さらにそのの午、真の炎の、いもよらぬ来客が柏を訪れた。 黒塗りの社用からりち、玄関のチャイムを鳴らしたのは、健太の司であった恵建設の建築営業部部・黒田(歳)だった。 縁の鏡の奥で細い目をらせ、真だというのに仕ての良いつ揃いのスーツに寸分の乱れもない。の葬儀以来の再会だった。
「突然の無礼をお許しください、お父。健太君の供養にと、名古の名産をお持ちいたしました」 客に通された黒田は、仏壇に恭しく線をあげ、をわせた。 しかし、源郎は葬儀のに覚えたあの違を忘れていなかった。元は神妙に結ばれているが、鏡の奥の瞳には微の悼も宿っていない。品定めをするような、淡な監査官の目だ。
座卓に戻った黒田は、鞄から茶封筒を取りし、テーブルのに滑らせた。 からてきたのは、何枚かの厳格な式でかれた文だった。 「本は、会社からの正式な弔慰ならびに見のお支払いの件で参りました。
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健太君のの貢献に報いるため、会社として百万円の特別支を決定いたしました」
「百万円……ですか」 「ええ。健太君の過失による事故とはいえ、が社の切な社員でしたから。これを受け取っていただければ、翔太君の学資や、これからの活のきなしになるはずです」
源郎が類に目を落とすと、そこには細かい条項が並んでいた。 その最のに、源郎の鋭い線が止まった。 『――本見の受領をもって、甲(遺族)は乙(恵建設)に対し、本件事故ならびに雇用関係に起因する切の異議申して、損害賠償請求、政続をわないものとする』
「黒田さん。この文は、どういうですかな?」 源郎が指先でその条文を叩くと、黒田はく笑い、麦茶にをつけた。 「形式なものですよ。このの見を支払う際、どの企業でも交わす定型文に過ぎません。……ただ、困ったことにですね、奥様が頑なにサインを拒んでおられましてね」
黒田は急に声を潜め、探るように源郎の顔を窺ってきた。 「こう申しげては失礼ですが……奥様には、何か別の惑がおありのようでしてね。夜な夜な名古ナンバーのに乗る若い男性と密会されているという噂も、に入っております。……誰かに恵をつけられて、会社からもっとを毟り取ろうと画策しておられるのではないかと、々も配しているのですよ」