"息子が遺した証拠" 第2話
のの同居と
健太の法が無事にけたの終わり、名古から松本の実へとさな引っ越しトラックが到着した。 嫁の美咲(みさき・歳)と、学になる息子の翔太(しょうた・歳)が、源郎と同居するためにやってきたのだ。
社宅を退しなければならなくなった際、美咲は正座をして源郎にをげた。 『お父さん、寄りのない名古で暮らすより、健太さんがまれ育ったこの町で、お父さんのそばで翔太を育てたいんです。ご迷惑でなければ、置いていただけないでしょうか』 『何を臭いことを言っとる。部ならいくらでも空いてる。翔太、いつでも作業で切れを削って遊んでいいぞ』 あのは、胸の奥に灯りがともるようないだった。
美咲は本当に良くできた嫁だった。 朝は半に起きして温かい噌汁を作り、仏壇には炊きたてのご飯と番茶を供える。源郎の血圧の薬を忘れないよう、週分の付が入ったピルケースに几帳面に仕分けしてくれた。 昼は駅のスーパーでレジ打ちのパートを始め、夕方には真っ直ぐ帰宅して、き妻のかず子から教わったというし甘めの煮物を作って卓に並べる。 翔太も元の学に転し、放課は源郎の作業でカンナ屑を集めては楽しそうに笑っていた。
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失われた息子の命は戻らないが、族の温もりがこの古い本にしずつ戻りつつあった。
――異変が始まったのは、梅に入った旬の曜のことだった。
その、夕の片付けを終えた美咲が、奥の寝で鏡台のに座っていた。かず子が嫁入り具として切にしてきた桐の鏡台だ。 廊を通りかかった源郎は、障子の隙から見えた景に、わずを止めた。 美咲が、さなを唇に当てていたのだ。
ほんのりとした、だが夜の灯りのでは妙に艶めかしく見えるの。 健太の葬儀以来、すっぴんで髪をろでつに束ねるだけだった嫁が、化粧をしている。 「お父さん、しかけてきます。翔太をお願いしてもいいですか?」 「あ、ああ……構わんが、こんな夜更けにどちらへ?」 柱計の針は、すでに午を指していた。 「ええ、ちょっと野暮用がありまして。遅くなるかもしれませんので、先に休んでいてください」
美咲はさく会釈すると、普段使いではない革のショルダーバッグを肩にかけ、傘を差しての夜へと消えていった。 源郎は気になって寝付けず、のでを澄ませていた。 玄関の引き戸がカタリと静かにき、美咲が忍びで戻ってきたのは、夜の分のことだった。
翌週の曜も、その次の曜も、同じだった。
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曜の夜になると、美咲は必ずくを引き、何事かを隠すように線を伏せてをていく。そして帰宅は決まって夜の過ぎ。 変わったのはそれだけではなかった。 美咲の目のには、を追うごとに青黒い隈が濃くなり、肌の艶が失われていった。 台所で鍋をにかけたまま焦がしたり、洗濯物を干しながらぼんやりと空を見げて涙ぐんでいたりすることがらかに増えた。
「美咲さん、丈夫か? 無理をして体を壊したら、健太がしむぞ」 源郎がたまらず声をかけると、美咲はビクッと肩をねさせ、慌てて作り笑いを浮かべた。 「丈夫です、お父さん。ちょっとパート先で棚卸しが続いて疲れているだけですから」 しかし、その瞳の奥には、誰にも踏み込ませまいとする頑なな防壁が築かれていた。
ある曜の夜、作業で源郎と緒に休みの作である本棚を作っていた孫の翔太が、やすりをかすを止めてぽつりと言った。 「じいちゃん……お母さんね、夜に仏壇ので、お父さんの写真抱きしめて泣いてるんだ」 「……そうか」 「曜の夜、どこにくのって聞いても、『事な用事なの』って言って教えてくれないんだ。お母さん、僕たちを置いてどこかへっちゃうのかな……」 「馬鹿を言え。お母さんが翔太を置いていくはずがないだろう」
源郎は孫のさなを撫でながら、胸の奥で渦巻く黒い澱のような疑惑を、どうしても打ち消すことができなくなっていた。