みかん小説
本棚

"三千円の温泉旅行" 第8話

「町内会夫」の予約

美代さんは、普段きな声をすではない。

だからこそ、その言葉にはみがあった。

「私は千円だから恵の湯へきたかったわけではありません。主とった所だったからきたかったんです。それなのに、矢野さんは“栗ご飯なんてでもべられる”と言いました」

矢野夫は目をそらした。

留さんもをいた。

「私は恵の湯で分だったよ。古い宿だけど湯はよかったし、でも楽しかった。旅ってのは、値段をに自するもんじゃないだろ」

「でも……」

矢野夫が何か言おうとしたところで、福田さんがしいを枚した。

「それから、もうつ確認したい」

それは鶴亀楼へ話で問いわせた内容をまとめたメモだった。

「予約名義が、“矢野町内会夫”になっとるそうじゃ」

矢野夫が固まった。

「それは……向こうが聞き違えたんでしょう」

美代さんがすぐに首を振った。

「いいえ。受付でご自分から言っていました。“町内会の矢野です”って」

「美代さん!」

「私は聞きました」

福田さんの声がくなった。

「町内会はわしじゃ」

誰も笑わなかった。

「副会の妻だからと言うても、会ではない。それどころか、今回の旅先を変更する権限もない。町内会の名義を使って勝に団体予約をして、その代を町内会の積から払わせようとした。

広告

これは、ただの好みの違いでは済まん」

矢野夫は唇を震わせた。

「私は……婦部のためをって……」

「その婦部のたちに、恵の湯は事だと嘘をついたのはなぜじゃ」

答えはなかった。

「わしも承したと言ったのは?」

沈黙。

「静子さんには内緒にしろと言ったのは?」

さらにい沈黙が続いた。

私は膝のでをねた。

責めたい気持ちはあった。

けれど、こので私がになれば、「会計と婦部の個な争い」に見えてしまう。それだけは避けたかった。

私は帳簿をき、必なページだけ机のへ置いた。

「私は、こちらの数字についてだけ説します」

積万千円。

貸切バス代万千円。

恵の湯万千円。

次度繰越万千円。

そして、すべての領収と確認印。

「このおは、私のものではありません。皆さんから預かっているものです。だから、私の判断で万円を持っていくことはできませんでした」

幹事さんがうなずいた。

「会計として当然です」

すると矢野夫が、突然こちらを見た。

「でも、結果におは余ったんでしょう? だったら鶴亀楼に使ってもよかったじゃない!」

私は首を振った。

「余ったのではありません。来の旅のために繰り越すと、役員会で決めています」

「同じ旅のおでしょう!」

「同じではありません」

私がそう答えると、務に昨夜言われた言葉をいした。

っている数字は、何度計算しても同じ。

決められた順も同じだった。

誰かの見栄のために変えることはできない。

福田さんが最に確認した。

「鶴亀楼の請求はいくらだった」

矢野夫は答えようとしなかった。

美代さんがさく言った。

「万千百円です」

ざわめきが広がった。

万円どころではない。

予定していた旅全体の費用万千円の、倍以だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: